夜を繋いで君と行く

「……なるほど。少なくとも僕が見ていた怜花さんのように、はっきりとした状態ではないということは伝わりました。そして、睡眠不足と食欲不振によって弱っている状態の怜花さんに話させるのは気が引ける二階堂さんについても理解しました。」
「理解早くて助かる。率直に、俺はどうするべき?」

 律は頬杖をつきながら九重に尋ねる。九重は手元の手帳をぱたんと閉じた。

「少し休みを増やします。引き続きとはなりますが。ただ、夏前にはスケジュールはまた戻りますのであまり悠長なことは言ってられません。怜花さんの体調を考慮しても、その状態を長期化させるのは避けるべきかと思います。ただでさえ華奢な方です。食べなくなって睡眠もとれないとなれば一気に痩せてしまうでしょうし。」
「毎日ケーキとか食べさせるべき?ハイカロリー的な。」
「怜花さんがハイカロリーなものがお好きなのでしたらそれもなしではないと思いますよ。一緒に食べる二階堂さんが太るのは困りますが。」
「んー……でもそれも結局一時しのぎだよね。……まぁ、息できなくなりそうだったから、まずはそれを避けたくてそっちまで手が回んなかった。」

 律がそう言うと、九重は少し驚いたように目を丸くした。

「……そこまで、なんですか?」
「うん。そこまでだった。息ができなくなるくらい怖い存在の『家族』って何?多分、相手は女なんだよ。」
「物理的なことをされ続けていたら、たとえば二階堂さんが少し腕を高く上げるといった動作一つに対してびくついたり、表情がこわばったりするかと思うのですが、そのような行動が常習的にありましたか?」
「ないねぇ、そんなのは。」
「ですよね。そして怜花さんを怖がらせた相手が女性なのでしたら、物理ではなく精神でしょうね。怜花さんの心を短期的に深くなのか、長期的にそして常習的になのかはわかりませんが、ずっと傷つけてきた。それが意図的にせよ無自覚にせよ、呼吸をすることを忘れるくらいに怖いのだとしたら、ただ事ではないですよ。ですが、……怜花さんが気にしすぎてしまうことや、ご自分よりも二階堂さんを大切になさっていた姿を見ましたので、少し繋がった感じはします。」
「繋がった?」

 九重は真剣な面持ちで頷いた。

「大切にされてこなかったのではないでしょうか、周りの方から。ですからご自身を蔑ろにしてしまう。後回しにしてしまう。どうでもいい存在だと、決めつけてしまう。実際怜花さんがそこまで卑下した発言を聞いたわけではありませんが、星宮ゆりあに物申したことで怜花さんは酷く申し訳なさそうな顔をしていましたよね。『やりすぎた』と仰っていた。やりすぎてなどいないし、正しかったのに。咄嗟に二階堂さんを思って行動し、それは全て正しくて、二階堂さんを安心させるものだったのに、自信がもてない。立場を低く見積もりすぎているように見えました。それは薄々、二階堂さんも感じていたのではないですか?」

 九重の言葉を律はじっくりと飲み込んだ。そしてゆっくりと口を開いた。

「……そうだね。怜花は自分を優先しない。どんなに泣いてても、苦しくても。俺が同じことをしたら叱ったのにね。」