夜を繋いで君と行く

* * *

「っ……!はぁ、はぁ……。」

 嫌な目覚めだった。いつもならばゆっくりと意識が浮上して、温かさの中にいつもの香りがあって少し微笑むことができるのに、そんな穏やかな時間を全て忘れてしまったかのように上がった息を隠したくて、怜花はぎゅっと唇を噛んだ。
 いつ眠ったのかは定かではなく、目は重くて体もなんだかしゃきっとしない。背中には緩く律の腕が回っていて、目は閉じられている。

(……あれだけ律が『いる』って言ってくれた、のに……)

 律が『あの子』に腕を引かれて、そのまま行ってしまう夢を見るなんて、どうかしている。そんなことは起こらない。昨日なのか今日なのかもうわからないが、たくさん付き合わせてしまった。律はいつだって真正面から抱きしめて向き合ってくれるのに。
 怜花は薄手の毛布の下で、律のスウェットを少しだけ握った。

「そうそう。何かあったら俺を呼ぶんだよ、真っ先に。」
「お、起こし……。」
「てない。息、大丈夫?苦しそうだったけど。」

 緩く回っていた律の腕が、意思をもって怜花を引き寄せた。背中をさする手には、やっぱり律の体温と優しさが乗っている。

「……背中、向けられちゃった。」
「え、俺に?」

 怜花は抱きしめられたまま、こくんと頷いた。

「そいつ、本当に俺?そっくりさんとかじゃなくて?」
「……嫌な、夢。夢ってわかってるのに、ね。」
「夢でも怜花に背中向けられたら嫌だよ、俺だって。嫌な夢だなぁそれ。」

 こつんと額が触れ合うと視線がぶつかった。本当はこんな腫れぼったい目で律に向き合いたくなかったけれど、律が嬉しそうに笑うからそれを見たくて、視線を上げてしまった。

「なんかめちゃくちゃ信頼されてるって感じしていいね。怜花にぎゅって服掴んでもらうのもさ、行かないで~ってされてるみたいで可愛くて嬉しい。今日はこのまま、怜花は『甘えん坊の練習』ね。」
「甘えん坊……ま、待って!仕事っ……!」

 怜花が慌てて時計を見ると8時半だった。完全に遅刻だ。間に合わない。

「仕事は休みです。何時に寝たと思ってんの?八幡さんには連絡してあるから。明日も休むようなら早めに連絡頂戴って言ってたよ。あと、ちゃんと休みなさいって。有休、めちゃくちゃ余ってるって聞いた。」
「……余ってる、けど。」
「八幡さんには話したよ。怜花がめちゃくちゃ泣いて、寝てないから行かせられないんですけど、大丈夫ですかって。八幡さんは泣いたことも寝てないことも全く良くないから自宅待機って言ってた。あとは俺に任せてくれるんだって。」
「え?」
「だからね、今日は『甘える』を、いっぱい練習しよう?怜花にとっては練習で、俺にとってはハッピー。」

 そう言って律は子供っぽい笑みを浮かべた。そして再びぎゅっと強く、怜花がすっぽり埋まってしまうように抱きしめた。