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 金曜日の夜の映画館が、これほどまでにデートスポットだということは知らなかった。思っていたより混んでいて、そして目のやり場に困る。

(…外でそんなにいちゃつくなってば。ここは明らかに外!)

 腕を絡めて、パンツが見えるのではないというくらい短いスカートを履いた女が彼氏にしなだれかかると、その彼氏は満更でもない表情を浮かべた。そんなものを見てしまって、怜花の気持ちは一気に落ちた。その二人が座るソファを通り過ぎて、二階堂と怜花はフードやドリンクのメニューが載っている看板の前まで来た。

「映画観るときって何か食べる派?」
「泣く予定がなくて、一人の時はお腹が減ってたら食べますけど、誰かと一緒の時は相手に合わせる派です。」
「…困ったな。俺も相手に合わせる派なんだけど。相手に合わせる派同士って、折衷案どうするの?」
「…どうするのと私に聞かれてもですね…。」
「ご飯食べる時間なかったし、とりあえずポップコーン、半分こしよっか。ハーフ&ハーフの大きいのにしたらひとまず空腹凌げるよね?」
「私を待ってる間に食べてもらっちゃってたら良かったですね、すみません。」
「いや、食事は誰かと食べた方が楽しいよ。それに気付いちゃったからな~。」

 あくまで言い方は軽く、しかし一瞬表情が陰ったのが見えてしまった。ただ、それに今触れてはいけないような気がして怜花は口をつぐむ。

「喉乾くよね。何飲みたい?」
「あったかいのってあります?」
「あるある。俺もあったかいのにしよ。」

 怜花がふっと二階堂を見上げると、ふわっと笑顔が下りてくる。

(…なんだかなぁ、気が抜けてしまうのよ、この顔。)

 周りにいるようなベタベタするカップルを見て勝手に居心地が悪くなっている怜花をよそに、今日も今日とて二階堂は楽しそうに見えるのだ。今も大きなポップコーンバケットとドリンクを二つはめ込まれたプレートを持って、ニコニコしている。