夜を繋いで君と行く

「…仕事だからね。大丈夫。やり切るよ。」

 せめてもの強がりだった。怜花が目の前にいたらきっと、こんなことは言えていない。そもそもこんな目をして言ったところで、この『大丈夫』が嘘だということは一発でバレてしまう。

『…そっか。木曜は一回戻ってくるんだよね?』
「うん。ちょっと収録溜まっちゃってるやつがあるから、それを録るんでスタジオに引きこもり。」
『売れっ子だね?』
「…ありがたいけど、映画と今期のクール終わったら、…うん。ちょっと休むと思う。」
『そうなの?』
「うん。九重くんにオーディション禁止令出されてたから。ちょっと半年働きすぎたっぽい。だから1クール分はオーディション禁止って言われてて本当に受けさせてくれなかったから、新しいの一個もない。前やってたやつの2クール目があるけど、それくらいかも。」
『良かった!あ、ち、違うよ?出れなくて良かったってことじゃなくて、休憩できるのが良かったってこと!』
「…わかってるよ。いっぱい構ってね、怜花。」
『へっ?』
「俺の休憩は怜花がいないと始まんないし。…だからもうひと踏ん張り、頑張る。怜花の声聞いて元気出た。…ありがとね、わざわざ電話くれて。」
『ううん。…電話は、しようかなって思ってて。でもどの時間が空くのかとか事前リサーチするの忘れてて…』
「いいよ、そこまでいろんなこと気にしてくれなくて。大変じゃん。怜花がしたいって思った時に連絡して。…待ってる。」
『わ、わかった。』
「…あんま切りたくないけど、怜花に夜更かしさせたくないから切る~…。」
『…切らないでおこうか?』
「え?」
『通話、繋いでおいてもいいよ?どっちかが寝ちゃったなって思ったら、起きてた方が切ろっか。』
「そんな付き合い立てみたいなことしていいの?」
『…あの、私たちもまだ2ヶ月とかだからね?』
「…そっか。…そうだったね。じゃあそういう、初々しいやつやろう。やったことないし。」

 結局先に寝たのは自分だったようだ。なにせ、自分で通話を切った記憶がないのだから。

 北海道を終えた後、火曜は仙台、水曜は福岡での舞台挨拶を行った。水曜、都内に戻ってきてはいたが、家に帰る気になれずに久しぶりに事務所に泊まった。木曜は朝から収録に向かい、そして今、雨の中ずっと運転をしている。雨のせいでそれなりに道は混んでいた。

(疲れた。さすがに。…老けたのかな。体力が落ちた?…違うね。シンプルに、『吸われてる』。あのモンスターに。)