夜を繋いで君と行く

* * *

「明日公開なんだよね、『碧眼のアーク』。」
「うん。…そう…です…。」
「えっと…仕事ラッシュだからそういうテンション?」
「仕事が多いこと自体はありがたいことだからいいけど、あの子が一緒なんだよね、全日程。監督はいてくれる日もあるけどいない日もあるし。」

 2月下旬の木曜の夜。風呂を終えた二人は、ソファでくつろいでいた。ふとスマートフォンを触っていた怜花が目にしたSNS上には、最速上映に向かう人のコメントがいくつかあった。

「最速上映なんてのがあるんだね。深夜に観たら帰れなくなっちゃうような…。」
「最速上映は監督が出てくれるみたい。俺も出ませんかって言われてたけど…他の仕事にも支障出そうだったし、あと…。」
「あの子が一緒になっちゃったら、困った?」

 律は静かに頷いた。律の体がゆっくりと傾いで、怜花の方に体重がのった。バレンタインのチョコを渡したあの日以来、律は少しずつ怜花に『抱きしめてほしい』と口にすることが増えた。そしてここ最近はずっと疲れているように見えていた。

「…雑誌のインタビューはずっと別だったからいいけど、一緒なんだよね、舞台挨拶は。またこの前、会っちゃって。遭遇頻度上がってるのかな。」

 はぁと深いため息が落ちる。確かに彼女、『星宮ゆりあ』はお騒がせ系のアイドル、タレント…カテゴリーをどこにすればいいのかはわからないが、最近流行のショート動画などで若者に人気になり、特徴的なメイクと声が話題となって今回監督の目に留まったらしく、声優に抜擢された。

「その日、私がこっちにいた日?」
「ううん。怜花、いなかった。」
「そっか。…明日から1週間ちょっと、舞台挨拶ウィークなんだっけ?」
「うん。ちょっと遠出っていうか、帰って来れない日もあるし…はぁー…気が重い。」
「何が、苦手なの?」

 怜花が問いかけると、律は苦笑した。前髪が目元にかかっているせいで、口元以外の律の表情がよく見えない。

「…世間一般じゃきっと可愛いってことになってるんだろうし、それを武器に生きてきたんだとも思うし、それでいい人たちの中で、それでいい人として生きてるだけなら別にいいんだけど、そういう…上手く言えないけど、可愛い自分に興味をもってくれない『俺』に、興味をもって近付いてくるところが…しんどい、…うん。しんどい、かな。隙あらば腕を引こうとしたり、隣に立とうとしたり。…気にしすぎっちゃしすぎだから、自意識過剰かよって話でもあるんだけど。」
「…嫌、だよね。嫌なものは、嫌だよ。…『あなた』と距離を取っているのは、『あなた』が苦手だからなのにどうして詰めてくるのって、何度も思ったこと、あるよ。」

 怜花はそう言葉を落とすと、律の手をそっと握った。