夜を繋いで君と行く

* * *

「失礼しまーす!」
「…なんでお前、そんなにへばってんだよ。」

 律は三澄と同じ控室にいた。30分後に始まるステージが三澄と一緒だったからだ。そこにいつも通り仏頂面の御堂と、ニヤニヤした顔つきの空野がやってきた。

「ふぅ~ん?なんか彼女ができて二階堂にしては珍しく浮かれてるって聞いて、実際どうなのか確かめるために来たんだけど?」
「浮かれてるではなく絶望してるの間違いでーす。」

 タッパーから出したクッキーの甘さだけじゃ正直足りない。恋人との時間を食べた方が甘さで満たされることを知ってしまった今、欲張りになっている自分には薄々気付いている。
 律のつれない返事に、空野はますます笑った。そしてそれをやんわりとたしなめる三澄はつくづく大人だと律は思う。御堂はといえば律を興味深いものでも見るかのようにじっと見つめていた。

「お前、明日もほぼ一日稼働だろ?」
「そうだよ。」

 御堂の問いに不貞腐れたように律は呟いた。御堂とは明日のステージで一緒になる。午前のステージで御堂は終わりらしいが、律は午後も出る。しかも午前のステージと午後のステージの間の時間が長く、無駄に時間を持て余すことになっている。そんな時間があるならすぐに帰りたいのに。

「10月から働いてばっかりだな。最初からそんなんで大丈夫か?相手、一般人なんだろ?」

 御堂の言い方こそぶっきらぼうだが、そこには不器用な優しさと心配が滲んでいた。ここにいる仲間たちはみんな、一般人の彼女を妻にした(三澄はまだだが)声優たちだ。時間の調整の難しさやすれ違いを経験してきたに違いない。すれ違いという言葉では表せない、終わりかけともいえる時を過ごして、そのちぎれかけた糸を辛うじて結んでいる今、4人の中で誰よりも危うい橋を渡っている自覚はある。

「んー…まぁ、一番俺が色々下手なのはそうなんで、大丈夫とは言えないけど。仕事入れたのは自分だし、やるけどね、ちゃんと。俺が仕事できなくなることを望まれてるわけじゃないし、むしろ…。」
「うん。」

 空野の相槌のトーンが少し落ちて、真剣なものに変わった。

「たとえば俺のせいで仕事が減っても、タイミングによっては自分のせいかもしれないって思ってしまう人ではあるから、俺は仕事を極端に減らせないよ。」

 仕事が増えて一緒に過ごせないことが増えても、寂しいと思う気持ちがあってもそれは多分、言ってはくれない。もしそこにそういう気持ちがあるなら、今度こそ拾い損ねたくないとは思うけれど、相手に押し付けるかもしれない気持ちを持ってしまっているということを見せることは、自分たちにとって勇気の要ることだとわかっている。