夜を繋いで君と行く

* * *

「…え、旅館に泊まりに来たんだっけ?」
「…さすがに大きいお盆はないよ。あ、こっちの小さいポットに入ってるの、出汁だから。出汁茶漬けにしたければ使ってね。」
「こんなの、うちになかったよね?」
「うん。だから家にあるのもってきた。もう一つあるから、これはここに置いていくよ。」

 ご飯と味噌汁、そして焼き鮭には大根おろしが添えてある。横長の皿の上にはだし巻き卵、ほうれん草のおひたしにかぼちゃの煮物が並べられていた。

「…地味、だったね。なんか。見栄えがあんまりよくなかったかも。」
「全然!俺、こんな豪華な朝ご飯、家で食べるの初めて。」
「苦手なもの、なかった?ごめんね、もっとリサーチしてから作ればよかったんだけど、とりあえず野菜とか多めで、あんまり重くなりすぎないけどお腹いっぱいにするにはってことだけ考えちゃって。」
「…いっぱい考えてくれてるじゃん。まーじで泣きそうになるんだけど朝から。でも冷める前に食べたいから、…いただきます。」

 律はそっと手を合わせる。怜花もそれに続いた。

「いただきます。」
「…味噌汁、うまっ。かぶの葉、しゃきしゃきしてて食感面白い。かぶ、ほろほろじゃん。うまー。」

 いつも通りの大口に、怜花はほっとする。『泣きそう』と言った言葉がずっと引っかかっているが、目元を見た感じでは泣いた後のようには見えなかった。これから人前に出る身ではあるし、泣き腫らした目で立つわけにもいかないから、なんとか堪えたのかもしれない、とそんなことを思う。

「だし巻き卵、しょっぱい感じの味付けでいつも作るからそれで作っちゃったけど、律のお家もしょっぱい感じだった?」
「…わかんない。っていうか、覚えてない。怜花のだし巻き、美味しい。好きな味は、怜花の味だよ。」
「そっか。律の口に合って良かった。」

 泣きそうになった理由の端が少しだけ見えた気がした。律が繊細なのも、距離感の取り方が絶妙なのも、きっと『踏み荒らされた側』だったからだ。怜花と同じく。そしておそらく踏んだ最初の相手も、怜花と同じ『家族』なのだろう。

「夜はシチューにしようかなと思ってるんだけど、ホワイトシチューとビーフシチュー、どっちがいい?」
「一緒に食べてないのはホワイトシチューだから、ホワイトシチューでお願いします!」
「わかった。」

 怜花はにっこり微笑んだ。律が泣きそうなら、自分は泣かない。律が前にそうしてくれたように、笑って『泣いても大丈夫』だと言える人として対等に立ちたい。そんな思いが自然に笑顔を作らせてくれた。