「あの、本当に何なんですか？何を言ってるのかさっぱりなんですけど。」
「笑ったら、可愛いね。」

　顔を覆ったままだった手がゆっくりとほどけて、目が合った。不意に走った緊張感を誤魔化したくて、怜花はパッと視線を逸らした。

「はっきりとした美人って言ってませんでした？さっきもほどほどに笑顔だったと思いますけど。」
「美人だと思うよ。いわゆる綺麗系かなって。でもそうじゃなくて、さっきのは可愛いって感じ。俺の中ではちょっと違う。」
「…笑ったらって限定なの、それなりに失礼ですよね？」
「あ、ごめん。でもほんとにそうなんだもん。さっきのもう一回やって？また見たい。」
「さっきのって言われても自分じゃわかんないし…っていうか、二階堂さんは本当に変！里依〜助けて〜」
「あっ！やべ、三澄に怒られる！」

　里依の方に走って向かう怜花を慌てて二階堂は追いかけた。荷物持ちは二階堂のため、荷物が二階堂の走りの邪魔をする。しかしそれ以上に怜花は俊足だった。スニーカーというのもよくない。二階堂との差は広まる一方で、怜花は速度を緩める気はないらしい。

「は、速くない！？」

　二階堂の声なんて一切聞こえていない怜花がどんどん遠ざかっていく。二階堂は必死に追いかける。

「怜花！？あれ、二階堂さんといたんじゃ…」
「なんか変なんだもん！逃げてきた！」
「二階堂が何か迷惑かけた？何かあった？」
「聞いてくださいよ三澄さん！あいつ…」

　ついうっかりとあいつ呼ばわりしてしまったが、怜花も怜花で必死だった。簡単に近付いても近付けさせてもいけないのだ。それは自分を守るためで、例外はない。

「待って待って！てかめちゃくちゃ足速くない？」
「二階堂！お前、何したんだよ！」

　二階堂が来るや否や二階堂に詰め寄る三澄は、やはり里依の隣に相応しいなどと思いながら、怜花の目は三澄と二階堂を行ったり来たりする。

「いや待って！何もしてない！何もしてないっていうか会話はしたけど！」
「会話が変…だったの？」
「そう！」

怜花は里依の腕にギュッと抱きついて、ジト目で二階堂を見た。二階堂は観念したとでもいいたげに、両手をあげた。