夜を繋いで君と行く

 怜花が律から逃げながらもずっと浮かべていた律の表情は、こうじゃなかった。優しい笑顔で、にっこりだったり、いたずらっ子みたいだったり、そんな表情ばかりが浮かんでいたから余計に苦しかった。あの日々が輝いて、楽しくて幸せだったことを思い出してしまうから。
 だが、怜花が泣いていた間、律はずっとこんな顔をしていたのかもしれないと今なら思える。怜花が思い出していた律の笑顔は、律が頑張ってそういう表情ばかり見せてくれたから何度も目にしていたのであって、律にだって不安に心を蝕まれる日々はあったはずなのだ。ただ律が優しいから、自分を不安にさせないように、繋ぎとめられるようにと笑顔を浮かべてくれていた。

(…どうしてそんな簡単なことに気付けないんだろう。どうして、この人にこんな顔をさせてしまうんだろう。)

 後悔は今も募る。消えてはくれない。
 怜花は泣きそうになる気持ちをぐっと抑えて、律の頬に手を伸ばした。謝るのも泣くのも、今は違う。そんなことをしても、怜花が楽になるだけで律は楽になれない。

「…私にできることはある?してほしいことは?…私も、律が昨日言ってくれたみたいに、なるべく叶えたいよ、希望を。すぐできるのはご飯を作ることくらいだけど。」
「…ずっと一緒にいることくらいかなぁ、今日は。ってか…。」
「わっ…!」

 ぐっと律の腕が回って、そのままゴロンと横になったものだから怜花も巻き込まれて布団の上に戻る。腕は緩まらず、そのままゴロゴロと左右に律が揺れるのに合わせて怜花も揺れる。

「朝起きて怜花がいるの、多幸感やば~…前から思ってたけど。このべたべたくっついていい多幸感すごい。これ、ベッドから出られなくない?ずっとこれがいい~。」
「な、何かしたいことないの?」
「怜花は?」
「え?」

 ふと動きを止めた律の目が、怜花を捉える。

「前からそうだったけど、怜花は選択権を絶対譲るよね、俺に。多分無自覚なんだろうけど。でもいいよ、そんなに下がらなくて。隣にいてよ。立ててもらわなきゃ立てない人は怜花に似合わないからさ。俺は立ててもらわなくても怜花の隣に立ってたいし。」

 不安や揺らぎが引っ込んだ、まっすぐで強い律の声が怜花の耳に響く。無自覚にとっていた行動を言語化されると、自分がずっと持っていた息苦しさの正体が見えてきてしまった。息をするように相手よりも下がって、気持ちよくなれるようにしてあげて。それを繰り返す中で窒息して、遠ざけたものがたくさんある。