「ん?もしかして椎名さんって恋愛経験豊富?」
「ああいえ。そうじゃなくて。ずっと好きなものははっきりと好きで、真っ直ぐ応援してて。でもちゃんと気を遣うとか周りに配慮するみたいなことはずっとできてて。推し活だから何やってもいいみたいな波に染まることもなくて。…あんまりこれは深く話すつもりはないですけど、里依は高校時代の私の恩人なんです。だから、里依にはずっと笑っててほしい…。だから里依が幸せなら、私はそれで十分満足なんですよ。」

 ずっと眩しいままの、大好きな友達でいてほしい。里依は、怜花にとって一生特別で宝物みたいな存在だ。

「じゃあさ。」
「はい。」
「俺もずっと1人だったら、話し相手くらいにはなってくれる?」
「…いいですよ。なんて言ったって、二階堂さんは里依の大切な人の友達だから。」
「それって、俺自身には魅力ないってことじゃない?」
「そこまで言ってませんよ。そもそも、出てる作品は知っててもあなたがどういう人なのかは知らないですし。」

 怜花がそう言うと、二階堂がふと足を止めた。あと2分もかからずにみんなのところに戻れる、というところで。二階堂を一人残して去るわけにもいかず、怜花も足を止めて振り返った。

「…知ることは、嫌じゃない?」

 また声の質が変化した。少し揺れたようにも聞こえる。確かめるような真意を探るような声に、近付かれた気がする。物理的ではなく、違う部分で。

「嫌じゃないですよ。…二階堂さんは変な人ですね。なんとなくそうかなって思ってましたけど。」

 そう言ってふわりと笑った怜花の表情に、二階堂は面食らった。それに気づいた怜花がきょとんとした表情を浮かべた。

「…何か変なこと言いました?」
「いや、…なに?なんか、全然笑うと変わるじゃん。知らなかったんだけど。…そうやって笑えるんじゃん。」
「…?あの、そりゃ私だって、多少は笑いますけど…。」
「違う違う。さっきまでのとは全然違うじゃん。」

 二階堂が言っていることの意味が本気でわからなくて、怜花は首を傾げる。なぜ目の前のこの人は、片手で顔を覆っているのか、皆目見当もつかなかった。