何もかも、間違っていた。
僕は、つい最近まで、どこにでもいるような男子高校生で。
君は、このデスゲームを主催した黒幕で。
君と僕とは敵同士。
参加者である僕は、黒幕を殺すことが勝利条件。
黒幕である君は、最後の1人になることが勝利条件。
どちらかが死なないと、ここから出られない。
僕が君を想うこの気持ちがどんなに深くたって、2人で生きていくことは出来ない。
だってそれは、デスゲームの長い歴史で守り継がれてきた、変えられないルールだ。
だから、僕は君が生きる未来を選んだんだよ。
きっとね、君の正体には僕しか気づかないだろうから。
最初に運営の指示に従わなかった、あの人。
見ず知らずの存在であったあの人が殺された時、君は誰よりも泣いていたね。
その場にいた中で1番、君がデスゲームを拒絶していたように見えた。
晩ご飯が好きなメニューだった時は、無邪気にはしゃいで。
他の参加者が過去を打ち明けた時は、自分のことのように泣いて。
秘密の隠し部屋を見つけた時は、ハッピーエンドに期待して笑って。
みんなみんな、君のことが好きなんだよ。
君は間違いなく、この絶望的な空間を照らす光だった。
僕らが見ていた「君」が全て演技だったしても。
それでも、君ほど黒幕の似合わない人はいなかった。
誰もが君を疑わない。
…君のことを徹底的に知ろうとしない限りは。
そう思うからこそ、僕は君の可能性に賭けた。
君はきっと、僕のことなんて好きにならないだろうから。
僕は君にとっては、所詮、手駒のうちのひとつでしかないんだろう。
それならば、お気に入りの駒になろうと思った。
今回のゲームの目的は、黒幕の娯楽のため。
だから、僕はイレギュラーな存在を演じたんだ。
大事な情報を、ずっと言わずに取っておいたり。
正義のヒーローとして振る舞ってみたり。
最後には、みんなを裏切ろうとしたり。
…君も、楽しめたでしょう?
僕の大どんでん返し。
そのせいでこうやって、僕は今、銃口を向けられている訳だけど。
でもね、後悔はしてないよ。
「……君は生きてね、最後まで」
君が誰にも疑われることなく、このデスゲームを生き残る。
そこまでが僕の計画だから。
「っお願い、死なないで…!」
僕が笑顔で告げた言葉に、君は涙を零す。
そう。僕は、その言葉が聞きたかったんだよ。
演技でもいい。嘘泣きでもいい。
せめて最期だけでも、僕を見て。
「ごめん。それは難しいお願いだよ」
「そう…だよね。私の方こそ、ごめんね」
何もかも、間違っている。
敵でありながら、君を好きになった僕も。
僕を殺す立場のくせに、涙を流す君も。
全部、全部、どうかしているから。
だから、もうひとつだけ、間違わせて。
「僕は、君を愛してるよ」
君のことなんか考えずに放った、それは呪いの言葉。
これまでの僕らの関係が、作られたものだとしても。
この気持ちだけは本物だから。
「心の底から、愛してる」
僕の呪いが、君を縛れるように何度も伝える。
君が、僕を好いていなかったとしても。
都合のいい駒でしかなかったとしても。
君の中に僕という存在を刻みつけたい。
だから、全員を騙し切って。
その涙が紛い物なら、最後まで偽り切って。
どうか生き抜いて。
そうじゃなきゃ、僕の計画が崩れてしまう。
これが、最初で最期の僕の我が儘。
君の一生を、僕に頂戴。
僕の命を賭けてでも、君が欲しいんだよ。
僕の願いを叶えるように、銃声が辺りに響き渡る。
君は僕を見て、──大きく目を見開いた。
あぁ、ようやく、目が合ったね。



