意外と時間は早くすぎるもので、私がスパイとして沙雪家に潜入してから約一週間がすぎていた。
 今は土曜日の夜。平日は家政婦と合唱祭実行委員の仕事に追われていて、結構忙しかった。
 無事家政婦の仕事も終わり部屋に戻ろうとすると、春雷くんとすれ違う。
「おやすみ、春雷くん」
「……おやすみ」
 春雷くんはお菓子をくれたあの日から、あちらから話しかけてきてくれることはない。私が話しかけても必要最低限の返事しか返ってこず、困っていた。
 私、なんか嫌われること言っちゃったかな……。
 陽宙くんも、「最近咲地大人しいよね〜」と言っていて、女の私が職場にいることで自我を出せないんでいるのなら、本当に申し訳ない……。
 でも、それで謝ったとこで、きっとうざがられちゃうんじゃないかなぁと思う。
 難しいなぁ……。
「──どうした、玄。またあの話なら、私は反対する」
 はぁぁっと一人重ーいため息をついていると、部屋から声が聞こえてきた。
 玄さんの話……?
 防音設備はしっかりとしてるはずだからどうして聞こえるんだろうなと思ったら、ドアが少し空いていた。
 今、玄さんのこと玄って呼び捨てしたってことは……奏さま、かな。