「じゃあ、ついてきて。みんなに紹介するから」
「あ……はいっ」
 私は言われた通り、その人──杏(あん)さんへついて行く。
 五月上旬にいきなり沙雪家へ潜入しろと言われて、早一週間ほど。なんと予想よりも早く、沙雪家に潜入できることになりました! ……って、嬉しくはないんだけど……あはは……。
 そして今日が、その日。用意されていた黒と白のワンピースみたいなものに着替えてから行くと、家政婦で一番偉い人らしい杏さんが温かく出迎えてくれた。
 というか、私面接とか全然やってないし中学生だし……どうして採用されたんだろう。波原さんがなんかやったのかな……?
「ふふ、若い女の子が入ってくれて嬉しいわ」
「私ぐらいの年齢の女子って、少ないんですか?」
「女子はいないわね。ただ、あなたぐらいの歳の男の子が二人いるわ」
「そうなんですか……!」
 家政夫さんってことかな? 女の子がいないことは残念だったけれど、歳の近い男の子がいるってことに安心する。
 株式会社sayuki側だと思うから敵だけど……仲良くなれればいいな。
 ──いや、でも仲良くなりすぎると裏切りにとても胸が痛んじゃうから、そんな仲良くなんない方がいいかも……。
 スパイは余計な感情は持っちゃダメって、教わったもんねっ……!
 深入れしないように、適度に仲良くしよう。