「でも、言わないでくれてありがとうございます」
 微笑むと、玄さまは目を見開いた。
 そのまま、ぷいっと横を向いてしまう。
 あ、あれ、もしかして怒っちゃった……?
「……別に、お前のためにやったんじゃないんだけど」
 突然ぽつんと、玄さまが小さく呟く。怒ってないことに安心したと同時に、思わず笑いがこぼれた。
 なんか……そのセリフ、よく漫画で見るツンデレ系ヒーローのセリフと似てるなって思っちゃって。
 くすくすと笑っていると、玄さまは「なんだ」と不快そうに眉をひそめる。
「いえ、なんでもないです。すみません」
「……そうか」
 そういえば、私からの玄さまの第一印象って口数の少ない人なのかなって思ってたけど、結構喋る人なんだな。
 いつのまにか、『相手は沙雪家の息子』という意識がなくなってて、私も自然に喋れるようになっていた。
 自然に話せるようになったのは、嬉しいけど……でも、スパイとしていつでも気を引き締めなきゃ。
「あの、玄さま。私、もうそろそろ──」
「呼び捨て」