「柚希〜、社長からの呼び出し、何だった?」
 廊下を歩いていると、友達・蒼葉翠(あおばすい)くんに声をかけられた。
 翠くんは昔やっていた習い事が一緒で仲良くなって、小さい頃は「楽しいから」と私が毎日やっているスパイになるためのトレーニングをたまにやっていた。私が習い事をやめた今もこうやって、遊びに来るんだ。
 顔は瞳に緑色の前髪がかかっているからあまり見えないけれど、かっこいいんだと思う。
「実はね……!」
 翠くんには話していいかと思い、波原さんに言われたことをそのまま話す。
 すると聞いたとたん翠くんは、心配そうな顔で私を見てきた。
「侵入なんて……、危ないよ。柚希、断んなかったの? なんで?」
 不思議そうに訊いてきた翠くんに、私は困ったように微笑んだ。
「私に、拒否権はないから……」