沙雪は、株式会社namiharaの強力なライバル、株式会社sayuki(さゆき)の社長の苗字だ。
 つまり、その沙雪さんの家にスパイとして侵入しろと?
 ごくっと唾を飲み込む。
 実は私・雨雅柚希は波原さんの手によってスパイに必要な最低限の知識を学びながら育てられてきた。
 大人になったら、きっと波原さんに会社のためにスパイになれって言われるんだろうな……と予想もしていた。
 けれど、まだ中学一年生。こんな早く言われるなんて。
 自分に出来るのかと不安になってくる。それ以上に会ったことないけれど沙雪さんたちに罪悪感がある。
 ……だけど、私には拒否権なんてないってこと、わかっている。
 ぐっと拳を握りしめてから、私はこくんと頷いた。
「了解しました。この身をかけて最初の仕事、精一杯こなしてきます」
 私の返事に波原さんは満足そうに頷いたあと、「下がっていいぞ」と言った。
 私はまた頭を下げてから、部屋から退散したのだった。