ちなみに電話じゃなくて実際に会うことにしたのは、電話だと逃げてるように感じたから。
 私は波原さんの正面にたつと、息を吸った。
 言え……ちゃんと言うんだ、私……!
「波原さん……ごめんなさい。私、もうスパイはやめたいです」
「な……」
 言えたっ……!
 波原さんは、信じられないというように私を見ていた。
「それは……どういうことだ……」
「そのままの意味です。それと……波原さんと縁も切りたいです。ごめんなさい」
 頭を下げると、波原さんの手が怒りで震えているのが見えた。
 そのまま、その手を振りあげた波原さん。
 叩かれる──!
 これぐらいはすぐによけれる。けれど、一発ぐらい叩かれた方がいいような気がして、目をつぶった。
「この、親不孝者が……!」
 痛っ………………くない?