うーん……スパイのことは秘密だから、玄さまの信用を得るには大変そうだなぁって思ったなんて言えそうもないし。
 あと一つだけ、思ったこと──
「綺麗な人だな、って思ったかな……」
 別に変な下心があって思ったんじゃない。ただ、玄さまを見て最初に思い浮かんだ言葉。
 一見硬い氷のようだけど、今にでも溶けてしまいそうな儚さをまとっているというか……。
 私がそう言うと、桜水くんがふふっと笑った。
「だよね! 玄さまは本当に、綺麗な人だよ。容姿も、心も」
 まるで自分が褒められたように誇らしげに笑う桜水くん。
「玄さまのこと、したってるんだね」
「もちろん! 僕の恩人だから」
 恩人……?
 どういうことだろう。
 首をかしげると、桜水くんは「あぁ、そっか。柚希ちゃんは知らないもんね」と言ってから説明してくれた。
「僕たち……僕と咲地くんは、色々な理由で親がいなくて、児童養護施設で育ってたんだ。それを、玄さまが見つけて引き取ってくれた」
 その言葉を聞いて、目を見開く。