茜さま……。
 奏さまは茜さまを見ると、困ったように眉を下げた。
「……大丈夫さ。暴力をふったり、殺したりはしない」
 こ、殺っ……!?
 その言葉聞いて、茜さまはほっと息をつき、私の手首を離した。
 奏さまに反抗するなんて怖いはずなのに、しかも今の事態は私がもたらした結果なのに……。
 茜さま……ううん、もうさまづけはしなくてもいいのか。
「ありがとう、茜先輩」
 そっと小さく微笑むと、茜先輩は目を見開いてから、気の抜けたようなふにゃっとした笑い方で微笑み返してくれる。
 その笑顔を見るのが最後になると思うと悲しくて、私は目をそらし、奏さまの後ろについて行った。
 たった四週間にも満たない付き合いだった、はずなのに……。
 なんで何年も住んでいた家を離れるみたいな、寂しい気持ちになるのだろう──。