首をかしげる茜さま。それが無意識なのか、わざとやっているのかわからない。
 話がなかなか伝わらないなぁ……。
「なら、もしも私が一流のスパイで、茜さまを殺せと命令されてるとしたら?」
 もちろん、たとえ話。ただ、茜さまに私みたいな子を部屋にあがらせることがどれだけ危ないことかわかって欲しかった。
 けれど、また茜さまはわざとらしくきょとんと首をかしげた。
「でも、君はそんなことできないでしょ?」
「……っ」
 思ってもみなかった言葉を返されて、私は息を呑む。
 まっすぐ見つめられて、私は思わず視線をそらした。
 ──図星、だったから。
 心臓がドクドクとなっている。じっと茜さまがこっちを見てる気がして、耐えきれず私は「失礼しますっ……」と言って茜さまの部屋から出た。
 ドアの前で、ふっと力が抜けしゃがみこんだ。
『でも、君はそんなことできないでしょ?』
 茜さまの言葉がぐるぐると頭の中で駆け回る。
 ただの例え話だ。波原さんは、そんなことを私に命令しない。