「柚希さん。奏さまは今はいらっしゃらないようだから、今日はもういったん下がりましょうか」
「あ……、はい」
 奏さまは、株式会社sayukiの社長だ。確か奥さまは、玄さまたちが小さい頃に家を出ていったらしい。
 杏さんの言葉に頷いて、「失礼します」と言ってから部屋の外へ出る。
 ドアがガチャンと閉まったのを見届けて、私はふぅぅっと息を吐き出した。
 あの人たちが、株式会社sayukiの社長の息子……。
 視線が、鋭かった……。
「柚希さん。これから、建物の案内をしますのでついてきてください」
「はいっ」
 杏さんに声をかけられて、私は俯いていた顔をあげる。
 視線がいくら鋭くて怖いからといって、弱ってちゃいけないぞっ……!
 私は足を踏み出すと同時に、よしっと気合いを入れ直した。