「俺、次男の沙雪茜(あかね)でーす。中学二年生！　よろしくね」
　クリーム色の髪に赤い瞳の人が、次男の茜さまか……。
　今もふにゃっと笑っている表情豊かな茜さまは一見心情が読みやすそうに見えるけど、いつも笑顔を絶やさないから逆に読みにくいらしい。……と、今回の仕事用に沙雪家のことを調べた時に噂で聞いた。
　今回の重要なターゲットではないから、ぼろを出さないためにも関わりは最低限にしよう……。
　そして──今回の一番重要と言っても過言ではないターゲットは。
「……沙雪玄(はじめ)。中三」
　ちょうどその人が、私を見ながら口を動かした。
　長男、沙雪玄さま。……次期社長候補。
　玄さまは静まった夜の湖みたいな色の瞳で、私をじっと見る。
　まるで、探るような瞳。ぞくっと、背筋が凍った。
　……この人、私のこと怪しんでいる。
　そんな目立つ行動はしてないはずだから、多分玄さまは初対面の人全員にこの目をしているんだと思う。
　やっぱり、簡単には信用してくれないか……。
　次期社長候補でしかも未成年だから、一番会社の情報を引き出すためには手っ取り早い、と思ってたけど……結構難しそうかも。
　じっっと玄さまを見つめ返していると、杏さんが私の耳に口を近づけて言葉を吹き込んだ。