ドアに手をかけ、茜さまは部屋へ入っていく。が、途中で茜さまは振り返った。
「柚希ちゃん。……君は、玄兄のことどう思ってる?」
 え……玄さんのことを?
 茜さまの顔を見る。すると表情は笑っているように見えるけれど、目は全く笑っていないことに気づいて、背筋が冷たくなった。
 何を聞き出したいのかわからない。わからないからこそ、それが怖い。
「……いい、主だと思っています」
 動揺しているのがバレないように、私はなるべくいつもと同じトーンでそう言う。茜さまはくすっと笑った。
「そっか」
 その言葉を最後に、茜さまは部屋に入っていった。ドアが閉まるガチャ、という音がやけに大きく響く。
 ……茜さまは、私がどう答えるのを期待してたんだろう?
 敵って言って、私が株式会社namihara側にいることを確信したかった? でも、私がそう簡単にそんなことを言わないって、頭のいい茜さまはわかってるよね?
 茜さまの心の中が、全く読めない。
『いい、主だと思っています』
 私がさっき言った言葉が、頭の中をこだまする。
 いい主だと思ってる。それは本当だ。