《そうか。いいか、お前は俺が知ってる中で一番優れた力を持つスパイだ。頼むぞ》
「……はい」
 私が返事をしたのを待たず、切れた電話。
 痛む胸を抑えながら、私はスマホの電源を切る。
 ……どうすればいいのだろう。
 玄さんを裏切りたくない。けれど、波原さんがここまで私を育ててくれたことは事実で、そのことは本当に感謝している。
「あ、柚希ちゃーん。ちょっと肩貸してくんなーい?」
 いきなり声をかけられて、びくっと反応する。
 顔をあげると、茜さまがいた。
 今の電話……聞かれてないよね?
 まぁ、スピーカーモードにしてなかったし……聞かれてたら、私に声をかけてくるなんてしないはず。
「どうしました?」
「いや〜、ずっと玄兄から逃げてたんだけど、今日捕まっちゃってね〜。正座で一時間ですんだからよかったけど、足がしびれちゃって」
 正座一時間っ……!?
 そりゃしびれるなと、私は茜さまに近づいた。