「達筆君……この輪をよく見て……貴方は名前が書きたくなある、書きたくなある、書きたくなある……」

 って、それ、5円玉ですよね、速記さん!! なんて古典的なっ!

「あっれぇ? 久しぶりだな、良い奴男! 巫女ちゃん!! 珍しい奴が来たよ」

 だから、殿、てめぇ! 空気読めっつってんだろ!! つうか、誰と話してんだよ!

「あら、昔、殿に憑いていた、良い霊じゃない。こんな所にどうしたの?」

 霊? 幽霊部員の『良い奴男』って、本物の霊だったの?

「……たくなある、書きたくなある、書きたくなある、書きたくなあ……」

 え? 嘘、マジ? 手が勝手に……!
 え、ちょっ、待って!! 催眠術って五円玉でかかっちゃうものなの!?

 アアァァァァァ!!
 手が勝手にィィィ!!

「ぷっ。やあだ、速記ちゃん、私が書いてほしかったのは、達筆君の名前よ。
それを、こ、こんな……ぷぷ」

 ……本名ですけど!!


「これで、私、もっともっと強い巫女になれるわ!!」

 婚姻届を胸に抱き、そう意気込む巫女さんに僕は、がっくりと肩を落とす。
 空手さんは茶菓子をかじり、速記さんは鼻毛を大事そうにハンカチに包んでいる。
 殿は……まあ、いいだろう。

 幸運か、不運か、僕の高校生活はこうして始まった。
 そして、巫女さんのいう事が正しければ、破魔矢が刺さるたびに僕の運は上昇していく……はずだ。


 最後にひとつ。

 もしも君が霊にとり憑かれた時、僕の高校の三階、一番隅の部屋を訪れるといい。
 扉を開けてくれればすぐわかる。そこには、鏡の前で一風変わったポーズを真剣に練習している美形顧問がいるはずだ。

 そいつにこう言えば良い。

 『殿、顔にゴミついてますよ。巫女名誉部長を呼んでとってもらって下さい』

 そうすれば、駆けつけた絶世の美女が『喜んで』除霊してくれるだろう。


            了