「……おれぇの、名前はぁ、とぅのぉ、T・O・N・O!!」

 ……なんだ、この歌。

 体のあちこちが痛い。ここは――。
 重い瞼を上げる。

「うわあ!!」

 衝撃。思わず声を張ってしまった。
 かすむ視界いっぱいに、男の人の顔のどアップ。

「ヘイ、ボーイ。お目覚めかい?」

 その人は、超至近距離を保ったまま、にこりと微笑むと、手のひらを下に向けた腕を顎の下に添えてバックステップを踏んだ。ア、アイーン?

「あ、そうかそうか。眼鏡ね。眼鏡、キミと一緒に奇跡的に助かったのさ」

 ぼやけてよく見えないが、男の人。
 その人、何を思ったか、急にベッドの中に手を突っ込み、僕の手を引っ張り出した。

「これがないと、せっかくの俺の美しすぎて卒倒必死な顔がよく見えないもんな!!」

 そう言いながら、僕の手に眼鏡を乗せ、しっかりと握らせる。

 え、ええと……とりあえずお礼を言って、軋む体を起こす。眼鏡をかける。

 同性をどう表現したらいいか戸惑うが、形のいい額に始まり、完成度の高い眉、涼しい目元、一本線を引いたように通った鼻筋、程よい厚みの唇、シャープな顎のラインで締めくくられたその顔は、まあ、無難に「端正」。

 俗っぽく言ってみれば「イケメン」。

 僕の経験則から言えば、この白を基調とした部屋は病院の一室。又は、第二の僕の部屋とも言う。
 さあ、この「イケメン」、なぜここにいるんだろう。

 
「俺は、今日からキミが通う高校の教員で、殿。よろしく」
 
 はい?

 右手が差し出される。
 え、ええと、握手か。

「あの……もう一度……」

「だぁかぁらぁ、今日からキミが通う高校の教員」

「えと……その後……」

「よろしく」

「もうちょっと巻き戻していただいて……」

「殿」

 はあ?