僕ら(なぜか殿までついてきた)が巫女さんに案内されて入った部屋に入った瞬間、焚きつめられた香と僕の体によく馴染んだ墨の匂いが僕の体に絡み付いてきた。

 薄暗く、部屋の四隅、ろう立ての上で、ろうそくの炎がゆらゆらと曖昧な灯りを燈す。

 僕は首を捻る。

 部屋の広さは、20畳ほどの大広間。おそらく、板の間。

 まず、何故『おそらく』かというと、香が焚きつめられたこの部屋の床一面に和紙がひかれていたからだ。

 その和紙、どうも奇妙なのは、そこに大きく墨で星印が書かれていることだ。それも、真ん中に逆五角形ができるほうの星印。

「達筆くん、こちらに」

 巫女さんは、その星の中央に正座して、僕を手招きする。
 精気を食いものとするサキュバスだったか、インキュバスだっかは、こうやって異性を誘惑したのだろうか。

 色気を押し殺した巫女装束が、こんなにソソるものだとは思わなかった。
 巫女さんのムッとする色気によって、頭が空っぽになる前に、殿の姿を探した。

 ……問題なしっ!!

 有り難いことに、この奇妙な部屋には、特大の姿見が立ててあった。

 殿は、その前で投げキッスの練習に夢中だ。それもただの投げキッスではなく、鏡の中の自分にキスを飛ばす度、腰をくねらせながら片足が外側に折れ曲がる。

 そっとしておいてあげよう。

 いつ、どこで、その練習の成果を発揮するのか、問いただしたい衝動に駆られたが僕は今、それどころじゃないのだ。

 絶世の美女が僕を呼んでいるのだっ!!

 まあ、殿の様子をみる限りじゃ、あと3時間は、こっちの世界に戻ってこないだろう。至って問題はない。

 妖艶さを増した巫女さんに向き直り、僕は星印の中央へ歩みを進めた。