夕陽を真っ向から受けて、朱色の鳥居の前で仁王立ちの殿。
 いや、片手を暖色のグラデーションが美しい空へ真っ直ぐ腕に向けて、なおかつ、人差し指を立てているわけだから、仁王立ちと言っていいのか疑問だが。

「達筆……シャッターチャンスだぞ」

 僕にどうしろってんだっ!?

 あれだけ通りすがりの女子高生に携帯電話でパシャパシャやられて、まだなお撮られたいかっ!!

 殿と一緒に、どこぞの女子高生の携帯電話のメモリーに収められていると思っただけで生きた心地がしない。
 いちいちそのアングルに入らないように苦労をしたんだぞ、僕は。

 そろそろ限界だ。カウンセリングの予約を取っておかなかったことが本気で悔やまれる。

 その逆三角形の引き締まった背中にドロップキックを食らわしたのち、うでひしぎ、ヘッドロックをおみまいしたい衝動に駆られた。

 もういいよね? 
 僕、じゅうぶん我慢したよね? 
 やっちゃってもバチはあたらないよね? 
 つーか、やれってことでいいんだよね?

「そうか、もう撮ったか。では行くぞ」

 僕、何も言ってませんが。殿には、幻聴が聞えるらしい。その声は「もう撮りましたよ」と言ったらしい。

 ……もう降参です。全く疲れていないのに、なぜかタラタラと額から流れる汗をハンカチで拭いながら、がっくりとうなだれた。

 ああ、どうしてだろう。汗の出かたが尋常じゃないぞ。どんどん酷くなっている。そして、どうしても食べたい。

 黄色いやつを。