「退部は……くっ……無理……」

 ひいっ!! 速記さん、僕を睨まないでください!
 くっ、てなんですか、くっ、て!!
 威嚇する猫の如く、速記さんの尼そぎの髪の毛が心持ち膨らんだ気がする。

  僕は、無意識のうちに、半歩程後ずさった。これまた空手さんに負けず劣らずすごい気迫……。

「はあっ、はあっ、はあっ……。あー、すっきりしたあ。
この学校にはね、決まりがあって、入部届けにサインした段階で入部確定。
退部すると内申に響くのよ」

 やっと気が済んだのか、くまのぬいぐるみを段ボールにしまいながら、説明してくれる空手さん。

 その傍らでは、ピゲさんが唸りをあげて目を光らせていた。

 目、合わせたら駄目だ。ほら、獣の類って目を合わせた瞬間に飛び掛かってくるって聞いたことがある。

 しかし、なんだ、その制度は。こちとら、騙されて入部したというのに。

 内申か……。それは、非常にまずい。人生最後の大学入学式に出席できる可能性が低くなってしまう。

 だが、部活というものは、学校生活の中で最重要に避けなければならないものなのだ。

 何たって、中学の部活で……ううっ、思い出しただけで身震いが。
 とにかく、部活だけは。

 頭の中には、右に退部、左に入学式を乗せた天秤。ぐうっと、右に傾く。

 入学式には出たいが、背に腹はかえられない。生死に関わるのだ。