ろくな死に方しねぇから

 依澄に罪悪感はない。平然と学校に通い、平然と笑顔を振り撒いていることからも明白だ。殺さなければならない男だが、これまで殺してきたヴァンパイアとは大きく異なる。そう簡単に殺せる男でもないのは理解していた。油断したら、恐らく自分が喰い殺されてしまうだろう。依澄を殺す上では、自身の死も覚悟しなければならなかった。殺し屋という裏社会に足を踏み入れてしまった時点で、その暗闇は常につきまとう。

「好きな人っていうか、なんだろう、興味のある人はいるよ」

 人を喰ったその口で、依澄は言った。喰う予定の相手かと律輝は推測する。だとしたら、念のためその人物が誰か記憶に残しておいた方がいいだろう。これ以上被害者を出さないためにも。

「え、誰に興味あるの?」

「そうだね。あそこにいる彼かな」

「彼?」

「蓑島」

 依澄の視線と人差し指が、律輝の方へ向いた。予期せぬ事態に驚く間もなく、依澄に引っ付いているクラスメートの目が一斉に律輝を見る。瞬間、水を打ったように教室内がしんと静まり返った。依澄にスポットライトを浴びせられていると感じた。

 こちらを見遣るクラスメートと目が合うと、落ち着きなく髪を触ったり手遊びをしたりして即座に逸らされる。盛り上がりに欠ける人物の指名に、どのようなリアクションを取ればいいのか困惑している様子だった。こそこそと耳打ちし合っている人たちもいた。

 妙に気まずい沈黙が流れ始めたが、律輝を名指しした当の本人は気にした素振りもない。律輝に向かって銃口のように突きつけた指先をそのままに、残りの四本の指を広げる。依澄は目を細め、口角を持ち上げ、その手をひらひらと振った。見た目は普通の人間の手だった。

 挑発しているのか。嫌がらせをしているのか。いつか喰ってやるという意思表示か。手を振るというその行動の意図が読めない。