「宮間、昨日の放課後、一年の女子から告られてなかった?」

「え、宮間くんまた告白されたの? モテすぎだね」

「そんなことないよ」

「明日の文化祭は告白ラッシュの予感がする」

「もしそうだったら羨ましい限りだな。ちなみにさ、昨日の告白にはなんて返事したのか教えろよ」

 揶揄するように男子が言うと、依澄に視線が集まった。注目されている依澄は勿体ぶるように沈黙を作って、それから、あの気色の悪い明るい笑顔を浮かべて言った。

「秘密だよ。告白してきてくれた子と二人の」

 秘密と二人を強調する。二人だけの秘密。依澄の正体を知っている律輝の立場からすれば、塵芥ほどにしょうもない二人だけの秘密。

「秘密って。もしかして、オーケーした?」

「それはないと思うよ。宮間くんに彼女ができたら、朝のこの時点で騒がれてるだろうし」

「ああ、それもそっか」

 元々隠し持っている秘密にくだらない秘密を重ねた依澄は、優雅な足取りで自席へと向かい、椅子を引いて着席した。律輝と二つ机を挟んだ席だった。言わずもがな、依澄の隣の席の者たちが不自然に立ち去ることはない。

 教室にはいくつかの島が存在する。よく行動を共にするグループの塊である。それなりに仲の良いクラスであれば、島と島の間にあまり距離はない。余所の島にダイブするのもやろうと思えばやれる。律輝のクラスは、どこにでも気軽に移動ができるクラスだった。ただ、完全に孤立している律輝を除いて。

 律輝の周りに人はいない。律輝の席の周りは空いている。チャイムが鳴って、席に着かなければならなくなるまで無人である。対して依澄の周りには、大体いつも誰かしら人がいる。