生まれたときから、血なまぐさい世界だった。先代の祖父も親父もマフィアだった。一人息子の俺は、意思を持たない頃から跡継ぎとして育てられた。母親は知らない。死と隣り合わせの毎日。油断しようものなら命を落とす。友も愛も知らず、金以外の信用はない人生。
「ねぇ旦那様、今日も私と……」
「んな気分じゃねぇ、失せろ」
すり寄ってくる女は、俺の金が目当て。品のない連中ばかり。拾ってきただの部下が店から連れてきただの……鬱陶しいったらありゃしねぇ。多少顔がマシな奴はいたが、結局は金。本来なら跡継ぎを作るべきだが、ガキは嫌いだ。わざわざ教え込む義理もない。自分の身は自分で守る、が当たり前の世界でそんな悠長なことは言ってられない。
「若、隣町の派閥内で抗争が起きているようですがいかがなさいますか」
「またか……いい、俺が出向く」
「えっ、ですが」
部下を無視し、俺は最低限の武器を持って出かけた。無防備だと言われるかもしれないが、そんなのは知ったこっちゃない。イライラする。せめてこの鬱憤晴らしにでもなれば良いが。
*
隣町の派閥が争っている屋敷につくと、中から銃声が聞こえた。
「チッ、能無しがただ撃ち合ってるだけじゃねぇか」
扉を開けると、案の定ただの撃ち合いだった。
「銃の使い方もなってないような奴が銃を握るんじゃねぇ!!」
怒号を飛ばした。派閥の連中が静まり返った。下っ端と思われる小物はすぐ隠れてしまった。落ちぶれたものだ、この程度で逃げ出すとは。屋敷の庭を一望すると、端に女が縛られているのを見つけた。
(……白髪、それも長い)
異国の者だろうと瞬時に悟った。運悪く迷い込んだのか、誰かの所有物か。よくはわからないが、少なくとも過去にすり寄ってきた女とは比べ物にならないほど美しかった。
「おい、あいつは何だ」
「あ、あの娘は最近拾ってきたと……」
身分がないなら丁度良い。身の回りの世話をさせるでも良いだろうし、使えないなら売れば良い。身分のない美しい娘には高値がつくだろう。俺は女の方に近づいた。
「お前、ウチに来るか」
「……え?」
「売られるか、俺に仕えるか。選べ」
白髪の女は目を丸くした。
「では、あなたに仕えます」
迷いもない返事だった。俺が何者かを知らないようだ。
「そういうことだ、俺が連れて帰る」
「ま、待ってください!その娘は」
「うるせぇ!このきたねぇ屋敷の掃除でもしとけ!」
何か言おうとした下っ端を蹴り飛ばし、俺は女と自陣に戻った。
*
「おかえりなさいませ!若!」
「面上げろ」
出迎えの連中がバッと顔を上げる。何人かは目を丸くしながらこっちを見つめた。
「わ、若、その娘は」
「隣町の屋敷に置き去りにされてたから、持ってきた。丁度メイドがほしかったところだ」
女はペコリと頭を下げた。度胸と礼儀のあるやつだ。自室に戻り、紙とペンを取り出した。
「契約違反したら指が飛ぶと思え」
女は契約書に躊躇なく名前を書き連ねた。
「……アルカード、か?」
英字だった。やはり異国の者だったか。
「アル、とお呼びください」
いわゆる愛称というやつだろう。
「あなたのお名前は何と言うのですか?」
「椎堂蓮介だ」
アルは俺の目をじっと見つめた。
「じ、じゃあ、アル。身の回りのものは揃えてやるから、必要なものがあったら言ってくれ」
「……では、あなたの血をください」
「は?」
アルは俺の首に噛みついた。
「は、テメっ!」
即座に払い除けた。次に感じたのは違和感だった。噛まれたはずなのに、痛くない。
「て、テメェ、なんなんだ」
「申し遅れました……私、アルカード・ブラッドは、吸血鬼でございます」
「吸血、鬼?」
物語に出てくる吸血鬼のことだろうか。いや、わからん。そんなのフィクションの世界にしかないはずだ。
「っぐ、首、あちぃ」
鏡で首元を見ると、血の色の紋章が浮き上がっていた。
「な、んだ、これ」
「これで契約完了、ですね。蓮介様」
白く長い髪、いつの間にか目は赤く染まり、八重歯が伸びている。アルがニコリと微笑んだ。俺は生まれて初めて、背筋が凍る感覚に陥った。
「ねぇ旦那様、今日も私と……」
「んな気分じゃねぇ、失せろ」
すり寄ってくる女は、俺の金が目当て。品のない連中ばかり。拾ってきただの部下が店から連れてきただの……鬱陶しいったらありゃしねぇ。多少顔がマシな奴はいたが、結局は金。本来なら跡継ぎを作るべきだが、ガキは嫌いだ。わざわざ教え込む義理もない。自分の身は自分で守る、が当たり前の世界でそんな悠長なことは言ってられない。
「若、隣町の派閥内で抗争が起きているようですがいかがなさいますか」
「またか……いい、俺が出向く」
「えっ、ですが」
部下を無視し、俺は最低限の武器を持って出かけた。無防備だと言われるかもしれないが、そんなのは知ったこっちゃない。イライラする。せめてこの鬱憤晴らしにでもなれば良いが。
*
隣町の派閥が争っている屋敷につくと、中から銃声が聞こえた。
「チッ、能無しがただ撃ち合ってるだけじゃねぇか」
扉を開けると、案の定ただの撃ち合いだった。
「銃の使い方もなってないような奴が銃を握るんじゃねぇ!!」
怒号を飛ばした。派閥の連中が静まり返った。下っ端と思われる小物はすぐ隠れてしまった。落ちぶれたものだ、この程度で逃げ出すとは。屋敷の庭を一望すると、端に女が縛られているのを見つけた。
(……白髪、それも長い)
異国の者だろうと瞬時に悟った。運悪く迷い込んだのか、誰かの所有物か。よくはわからないが、少なくとも過去にすり寄ってきた女とは比べ物にならないほど美しかった。
「おい、あいつは何だ」
「あ、あの娘は最近拾ってきたと……」
身分がないなら丁度良い。身の回りの世話をさせるでも良いだろうし、使えないなら売れば良い。身分のない美しい娘には高値がつくだろう。俺は女の方に近づいた。
「お前、ウチに来るか」
「……え?」
「売られるか、俺に仕えるか。選べ」
白髪の女は目を丸くした。
「では、あなたに仕えます」
迷いもない返事だった。俺が何者かを知らないようだ。
「そういうことだ、俺が連れて帰る」
「ま、待ってください!その娘は」
「うるせぇ!このきたねぇ屋敷の掃除でもしとけ!」
何か言おうとした下っ端を蹴り飛ばし、俺は女と自陣に戻った。
*
「おかえりなさいませ!若!」
「面上げろ」
出迎えの連中がバッと顔を上げる。何人かは目を丸くしながらこっちを見つめた。
「わ、若、その娘は」
「隣町の屋敷に置き去りにされてたから、持ってきた。丁度メイドがほしかったところだ」
女はペコリと頭を下げた。度胸と礼儀のあるやつだ。自室に戻り、紙とペンを取り出した。
「契約違反したら指が飛ぶと思え」
女は契約書に躊躇なく名前を書き連ねた。
「……アルカード、か?」
英字だった。やはり異国の者だったか。
「アル、とお呼びください」
いわゆる愛称というやつだろう。
「あなたのお名前は何と言うのですか?」
「椎堂蓮介だ」
アルは俺の目をじっと見つめた。
「じ、じゃあ、アル。身の回りのものは揃えてやるから、必要なものがあったら言ってくれ」
「……では、あなたの血をください」
「は?」
アルは俺の首に噛みついた。
「は、テメっ!」
即座に払い除けた。次に感じたのは違和感だった。噛まれたはずなのに、痛くない。
「て、テメェ、なんなんだ」
「申し遅れました……私、アルカード・ブラッドは、吸血鬼でございます」
「吸血、鬼?」
物語に出てくる吸血鬼のことだろうか。いや、わからん。そんなのフィクションの世界にしかないはずだ。
「っぐ、首、あちぃ」
鏡で首元を見ると、血の色の紋章が浮き上がっていた。
「な、んだ、これ」
「これで契約完了、ですね。蓮介様」
白く長い髪、いつの間にか目は赤く染まり、八重歯が伸びている。アルがニコリと微笑んだ。俺は生まれて初めて、背筋が凍る感覚に陥った。



