幼い頃のリズの願いはたったそれだけだった。お金持ちになりたい、玉の輿に乗りたい、そんなことを願ったことは一度もなかった。ただ、家族がそばにいてくれることが、箱庭で暮らす少女にとっても幸せだった。

リズが小説を黙々と読んでいると、両親の会話が耳に入り込んだ。

『今度、ノーマ号に仕事で乗船することになったよ』

『あの豪華客船に?でもあの船は、前に事件があったんじゃ……』

『事件が起きたのは半年も前だ。民衆はすっかり事件のことなんて忘れてる。貴族はもっと昔に忘れてるよ』

『そう……』

『本題はここからなんだけど、上司が「奥様も連れて来てくれ」って言っててね。リリー、一緒に来てくれないかな?』

『私に?でもどうして?だってセドリック、私と結婚していることはーーー』

『もちろん言っていないよ。××のこともね。でも結婚していることがバレてしまったから、挨拶しないわけにはいかないだろ』

『……それもそうね』

そんな会話をした数日後、両親はリズを家に残して豪華客船へと向かった。見送りに外に出たリズに対し、父親と母親は笑いかけた。