『リリー。そんな顔をしないで。僕は、君と××が笑ってくれるだけで仕事の疲れが吹き飛ぶんだ。それに、ティータイムの準備は頭がリフレッシュされるからね。執筆が捗るんだよ』

父親の「執筆」という単語にリズの耳がピクリと動く。そして、彼女は父親の手を小さな手で掴んだ。期待を含んだ両目で父親を見上げる。

『お父さん、また小説ができたの?読みたい!」

『おやおや。せっかちな子だな。まだ途中だけど、読んでみるかい?』

父親が手に持っていた紙の束をリズに手渡す。その紙に書かれているのは、名探偵セドリックとその相棒ハリエットの物語だ。リズは胸の高鳴りを感じながら物語を読んでいく。今回の物語は豪華客船が舞台のようだ。

『私、お父さんの書く小説大好き!』

リズがそう笑うと、彼女の頭に父親の大きな手が乗せられる。そのままグシャグシャと頭を撫でられ、リズの心は幸せという温もりで満たされていた。

(ずっとこんな日が続けばいいな……)