「先輩が話せるなら」
声が震えていた。
でも、ちゃんと届いてほしくて、まっすぐ先輩の目を見た。
「俺の母さん、不倫して離婚したってこと聞いてた?」
私は、そっと首を振った。
知らなかった。 そんなこと、誰も教えてくれなかった。
「中学の時にその現場見て。 知らない男を家に入れて、聞きたくない声を聞かされて、その日は寝るまで吐いてた」
先輩の声は、静かだった。
でも、その静けさが逆に、 どれだけ苦しかったかを物語っていた。
「俺は父さんが好きだったから、 不倫がばれたときはざまあみろって思った」
…そんな気持ち、誰にも言えなかっただろうな。



