午後の最初の授業は、三階の教室。
私は、教科書を抱えて階段を上っていた。
そのとき――
すれ違うように、階段を降りてきたのは、晴人先輩だった。
一瞬、心臓が跳ねた。
でも、先輩は私の方を一切見なかった。
同居していることは、花にしか話していない。
もし知られたら、間違いなく学校中の女子が敵になる。
だから、先輩もきっと気をつけてくれてる。
すれ違ったあと、私はほんの少しだけ振り返った。
すると――
階段を降りていく先輩が、 ばれないように、そっと手を振っていた。
誰にも見られないように。 ほんの一瞬だけ。
私は、思わず息をのんだ。
…え。
なんですかそれ。
振り返す前に、先輩はもう階段の下へ消えてしまった。
私はその場に立ち尽くして、 心臓の音がどんどん大きくなるのを感じていた。
な、な、な、なにこれ!?
なんでこんなにドキドキするの?
ただ手を振られただけなのに。 誰にも見られないようにって気遣ってくれただけなのに。



