授業が終わって、部活に行こうと立ち上がったら隣の席から手が伸びてきた。

 颯くんは私の袖をつまんで、困ったような顔をこちらに向けている。


「颯くん、どしたの?」

「……あと、1日だ」


 ……そう。

 9月の始業式の日から続いていたカウントダウンも、明日でおしまい。


「自分で言い出しといてなんだけど、緊張しすぎて吐きそう」

「そんなに」


 カバンを置いて、颯くんの頭を撫でる。

 指先にワックスがついてペタペタするけど、めそめそしてる颯くんがかわいくて、つい撫でてしまう。


「じゃあ、やめる?」

「やだ、それは、しない。明日絶対に告白する」

「わかった。待ってる」


 颯くんが私の手を取る。

 少し袖をまくって手首にキスした。

 ……ここ、教室なんだけど!?

 でももう人はあんまり残ってなくて、一番後ろの隅の席の私たちを見ている人はいない。


「部活、行こうか」


 私の手を握ったまま、颯くんは歩き出した。



 部活中、ふと気になってスマホを取り出した。

 颯くんは、よく私の手のひらにキスする。

 今日は手首だったけど、何か意味があるのかな?

 片手で水をまきながら、スマホで調べる。


「……うわ」


 手首へのキスは『強い好意』。本気で相手を想うときにするキス。

 手のひらへのキスは『懇願』。つまり、自分の願いを聞き入れてほしいという、切なる願い。

 ちなみに手の甲へのキスは相手への『特別な愛情表現』。始業式のあと、颯くんにされたキスだ。

 つまり、颯くんはあのときには既に、私のことをそれだけ。


「……うん」


 スマホをポケットに入れて、ホースを握り直す。

 明日、ちゃんと私の気持ちを伝えよう。

 同じだけが返せるかはわからないけど、それでも、できるだけ。

 明日は、颯くんがハロウィンの後にくれたゴム、つけていこうかな。