体育のあと、着替えて教室に戻ったら、一ノ瀬が慌てた顔をした。


「柊、あと47日だけど、今は近寄んないで」

「は?」


 無視して一ノ瀬の隣に座る。

 お腹空いたし。


「あの、ごめん」

「なにが?」

「さっきまで柔道してたから、汗臭いだろ」

「いつもと変わんないけど」

「いつも汗臭いってこと!?」


 そんなこと……ちょっとはあるけど。

 一ノ瀬の制汗剤は無香料だから、汗っぽい匂いが残るときもあるけど、気になるほどじゃない。


「別に、そんな気になんないけど」

「ならいいんだけどさ」


 一ノ瀬が私のほうに屈む。


「ちょ、近い……!」

「柊は体育のあとでもいい匂いだな。制汗剤何使ってんの?」

「普通のだって、これ!」


 体操着入れに入れてた制汗剤を渡す。

 一ノ瀬はスマホで写真を撮った。


「使っていい?」

「いいよ」

「やった。……すごい、柊の匂いがする。めちゃくちゃいい匂い」

「言い方が変態だよ」

「……ごめ、つい」


 ついって何だ。

 でも、一ノ瀬から私の制汗剤の匂いするの、なんか微妙。


「……んー」

「やっぱヤダ?」

「ていうか、いつもの方が好きかな」

「……そっか」


 一ノ瀬は顔を真っ赤にして、弁当持って行っちゃった。


「……ち、違うから! 私の制汗剤の匂いだと、ちょっと変な感じするだけだから!!」