花壇に水をまきながら校庭を眺める。

 いつもどおり運動部が走ってるし、体育館からも掛け声が聞こえる。


 サッカー部は試合前だからかストレッチをしたあとはひたすらミニゲームをしていた。

 一ノ瀬はずっと走っている。

 双葉くんはキーパーで、ゴール前から指示を出している。


「頑張ってるなあ」


 他人事みたいに呟く。

 まあ、他人事だし。

 コートの横では女マネがキャーキャー応援している。

 なんていうか、すごくかわいいと思う。

 好きな人、憧れの先輩、そういう相手にまっすぐぶつかっていけるの、かわいい。

 ……それだと一ノ瀬もかわいいみたいだな。

 いやいやいや……。

 ミニゲームが終わって、一ノ瀬が駆け寄ってきた。


「柊! 見てた?」

「見てない」


 自分でもびっくりするくらい、かわいくない返事をしちゃった。

 なのに一ノ瀬はニコニコしながら汗を拭いている。


「明日、柊が応援してくれるの楽しみにしてるから」

「……なんで私なのよ」

「あれ、言ってなかったっけ? 夏休み、花壇に水やりに来てただろ。そのときの横顔が、すごくかわいかったから」

「はあ?」


 なにそれ。

 意味わかんない。


「すごく優しい顔してたんだよ。その顔を、俺に向けてほしい」

「……自分じゃわかんないよ、そんなの」

「うん。だから、そういう顔してもらえるように頑張る。あと52日で俺のこと好きになって」


 ……そう言ってる一ノ瀬の顔のほうが、よっぽど優しいと思う。