100日後、クラスの王子に告白されるらしい

 次の日も、その次の日も、柊は学校のあちこちで水をまいていた。

 一人のときもあれば、他の誰かと一緒のときもある。

 他の人と話してるのを近くで聞いて、柊が園芸部で、夏休みもほぼ毎日水やりに来てるって知った。


 なんとか俺に気づいてほしくて、柊が水飲み場でホースをつないでるときにすぐ横で顔を洗ったり、行き帰りにわざとすれ違ったりしたけど、全然気づかれない。

 ……もしかして、同じクラスって知らないんじゃねえの?


 どうしよう。

 毎日見かけるたびにドキドキするし、声かけたいし、触れたくなる。

 あの細い腕でホース抱えてると代わってやりたくなるし、水やりしてるなら一緒にやりたい。

 でも、そもそも存在に気付かれてないんだよなあ。

 同じクラスのはずなんだけど……。


 始業式の前の夜、ベッドに寝っ転がってスマホを見つめる。

 莉子の名前と苺大福のアイコン。

 好きなんだろうな、苺大福。

 それすらかわいいと思ってしまって、もう末期だ。


「颯ー、あたし帰るねー」

「へいへい」


 一階の玄関から従姉の三枝メイサの声がする。

 合宿で西先輩に振られてから少し凹んでたけど、いつの間にか復活したらしい。

 西先輩が姉貴と付き合ってるの知ってただろ。

 先輩の「一ノ瀬と付き合ってんだろ?」ってやつも意味わかんねえ。

 付き合うわけねえだろ。

 親戚だよ。

 しかも姉貴とメイサと俺は顔がそっくりだ。

 俺の母親とメイサの母親がコピーか?ってくらい似てて、そのせいで従姉弟なのに俺らの顔もそっくり。

 つまり、メイサは姉貴にも顔が似てて、とてもじゃないけど、そういう対象には見えなかった。

 姉貴もメイサも気が強くて図々しくて、俺からしたら小うるさい姉が二人いるような感じだ。


 柊みたいに大人しくてかわいい子と付き合いたい。

 間違えた。柊と付き合いたい。

 でも、どうやって意識してもらえればいいだろう。

 今のまま告ったら「誰?」とか言われそう。

 同じクラスだっての!!

 スマホを見てたら、『100日後に○○するワニ』ってマンガが出てきた。

 ……なるほど?

 まずは俺のことを知ってもらいたい。

 あの花ばっか見てる女の子の視界に、俺を入れてほしい。

 よし、これだ。

 こうして、俺は柊に声をかける決意を固めた。