100日後、クラスの王子に告白されるらしい

 中庭について、ニヤッと笑って颯くんは立ち止まった。

 花壇ではパンジーとビオラ、シクラメンが満開だ。


「夏休みの間、水飲み場とか校庭で何回かすれ違ったけど俺に気付きもしなかったからな」

「そ、そうなんだ。ごめん」

「いいよ。今はちゃんと俺に気付いて、好きになってくれたから」


 手を繋いだまま、颯くんはじっと私を見ている。

 私は、どんな顔をしているだろう。


「莉子、あのさ、嫌だったらそう言ってほしいんだけど」

「う、うん。なに?」

「キス、していい?」


 思わず周りを見るけど、朝7時半の中庭には誰もいない。


「……うん、いいよ」

「ありがと」


 つないでないほうの手が、私の腕に触れた。

 見上げると、颯くんは真剣な顔で、でも瞳だけが熱っぽく揺れている。

 目を閉じた。

 唇に温かくて柔らかいものが触れる。

 一秒かもしれないし、一分かもしれない。もしかしたら十分くらいそうしてたのかもしれない。

 それくらいして、唇が離れた。


「ヤバ……嬉しすぎて爆発しそう」

「そ……そだね……すごいドキドキする……」

「爆発したら、ちゃんと俺のことかき集めてくれよ」

「え、しないでよ。これからキスするたびに爆発されたら、困る」

「あの、あんまりかわいいこと言わないで。俺、余裕ないから」

「そうなんだ?」

「うん、莉子のことめちゃくちゃ抱きしめたいけど、部活いけなくなるから我慢してる」

「そっか」

「ちょ、残念そうな顔しないでくれよ」


 名残惜しいけど、颯くんは少し離れた。

 帰りじゃなくたって、十分離れがたい。


「あ、誕生日プレゼントも教室行ったら渡す」

「ありがとう。えへへ、嬉しい」

「家族以外で一番最初におめでとうって言いたかったから、待ってたんだよ。あ、でも俺、そろそろ部活行かなきゃ。またあとで」

「うん、頑張ってね」


 小さく手を振ったら、その手を颯くんに握られた。

 顔が一気に近づいて、唇が一瞬重なる。


「じゃ、行ってくる!」

「もー……、行ってらっしゃい」


 颯くんの満面の笑みに、私も同じくらいの笑顔で見送った。