ジーク領の朝はよく冷える。
ここに来てから毎朝凍える手をこすりながら起きていたけれど、今日は体が温かい。
久しぶりの温もりに、心なしか目覚めもいい。
「おはようございます」
「おはようティア」
こうやって一緒に起きるのは初めてだ。
挨拶を交わし、並んで部屋を出ることが新鮮に感じる。
「疲れは取れましたか?」
「うん。おかげさまでよく眠れたよ。やっぱりティアの隣だと安心する」
「それは良かったです」
昨日はあったクマも無くなっている。ずっと寝不足だったんだな。
シオン様と一緒に畑へ行くと、もう他の人たちが作業を始めていた。一生懸命、土を耕している。
「みなさん早いですね」
「今日ティアさんが帰るって聞いたもんですから」
「良いことですが、寂しいですねえ」
私が帰る前にできるだけ畑を広げておきたいのだという。
みんなとてもやる気に満ちていて、彼らがいれば私が帰ったあとも大丈夫だろう。
私は昨日芽を出した野菜たちに成長魔法をかけていく。
みるみるうちに葉が伸び、成長した根が頭を出す。
「おお!」
「すごいですね」
成長魔法を見た領民たちは驚いていた。
昨日植えた野菜が今日収穫できるまでになるなんてびっくりするよね。
「それでは、収穫していきましょう!」
シオン様も手伝ってくれることになり、一緒に収穫をする。
体を休めていた方がいいのではないかと言ったけれど、見ているだけは性に合わないと袖を捲った。
「さすが、慣れた手付きですね」
「まあ、それなりにやってるからね」
ユリウス様が隣に並び、シオン様を見て感心している。
「シオン様は領地経営のお仕事で忙しいですが、畑仕事もしっかりやっているのですよ」
「僕も見習わないといけませんね」
そう言うユリウス様だけれど、初めての作業とは思えないほど手際よく収穫していた。
きっと今までたくさん勉強していたんだろうな。
一通り収穫し終え、みんなで採れた野菜と畑を眺める。
今回は私の魔法ですぐに成長させたけれど、肥料をまき、水をあげ、丁寧に育てればもっともっと豊かな土地になっていくだろう。
「ティアさん、本当にありがとうございました」
枯れた荒野から、たくさんの食物が育つ土地に生まれ変わった景色に私も満足だ。
「いえ、私も良い経験になりました。何かあればいつでも相談してください」
「シオンさん、いいですか?」
「ティアの意思を尊重する……」
「ありがとうございます」
ユリウス様はなぜかおかしそうに笑っていた。
「そろそろ帰ろうか」
「はい。そうですね」
気付けば夕方になっていた。
短い間だったけれど、ここでの経験は私にとっても有意義なものだった。
「僕もここが落ち着いたら王都の邸宅に戻りますので、そのときに改めてお礼をします」
みんなに見送られながら、手を振り別れを告げた。
シオン様は魔力を蔓延らせ、足元に魔法陣を描くと私の腰をギュッと引き寄せる。
温かいものが、身体を纏う。
これが、転移魔法なんだ。
こんな経験、きっともうないだろう。しっかりと目に焼き付けておこう。
と思っていたけれど、瞬きをした瞬間、グラーツ家の中庭だった。
数日いなかっただけだけれど、なんだか懐かしい。
そしてふと思った。私はいつの間にかここが帰る場所になっていたんだ。
「ティア、おかえり」
「ただいま……です」
腰を抱えたままホッとした表情を見せるシオン様。
まるで張りつめていたものが解けたみたいだ。それだけ、私を心配してくれていたということだな。
あ、そうだ……
「あのシオン様、昨日言っていたユリウス様を罪に問うというのは……」
「そうだね、僕の対応も悪かったから、今回は目を瞑っておくよ」
良かった。
何の対応が悪かったかはわからないけれど、ユリウス様にはこれからもしっかりとジーク領を守っていってもらいたい。
「私も、今後は気を付けます」
「ねえ、ティア。舞踏会の日、どうしてクラウドと僕を踊らせたの?」
「えっ……それは……」
このタイミングでそれを聞かれると思っていなかった。
「あの時のことが変な噂になってるみたいなんだよね」
「変な噂とは?」
「グラーツ公爵は妻を放って男に現を抜かしているってね」
うそ……。そんな噂が。
二人のことを思ってしたつもりだったけれど、周りからそんなふうに見られていたなんて。
考えが足りなかった。
私のバカバカバカ。
シオン様の評判を下げるつもりではなかったのに。
「申し訳ありません」
「うん。だからさ、明日街でデートしようよ」
街で、デート……。
二人で仲良くしている姿を見せて、噂を払拭するということか。
クラウド様との仲を応援したいと思っているけれど、シオン様の望まない形で周りに噂されるのはだめだ。
「わかりました! 頑張ります!」
「頑張らなくても普通にしてくれたらいいからね」
そう言うけれど、ここは頑張り時だ。
明日は周りの人から私たちがラブラブに見えるようにしっかり振舞おう。
シオン様にたくさん迷惑をかけた分、噂の払拭くらいやらないと。
ここに来てから毎朝凍える手をこすりながら起きていたけれど、今日は体が温かい。
久しぶりの温もりに、心なしか目覚めもいい。
「おはようございます」
「おはようティア」
こうやって一緒に起きるのは初めてだ。
挨拶を交わし、並んで部屋を出ることが新鮮に感じる。
「疲れは取れましたか?」
「うん。おかげさまでよく眠れたよ。やっぱりティアの隣だと安心する」
「それは良かったです」
昨日はあったクマも無くなっている。ずっと寝不足だったんだな。
シオン様と一緒に畑へ行くと、もう他の人たちが作業を始めていた。一生懸命、土を耕している。
「みなさん早いですね」
「今日ティアさんが帰るって聞いたもんですから」
「良いことですが、寂しいですねえ」
私が帰る前にできるだけ畑を広げておきたいのだという。
みんなとてもやる気に満ちていて、彼らがいれば私が帰ったあとも大丈夫だろう。
私は昨日芽を出した野菜たちに成長魔法をかけていく。
みるみるうちに葉が伸び、成長した根が頭を出す。
「おお!」
「すごいですね」
成長魔法を見た領民たちは驚いていた。
昨日植えた野菜が今日収穫できるまでになるなんてびっくりするよね。
「それでは、収穫していきましょう!」
シオン様も手伝ってくれることになり、一緒に収穫をする。
体を休めていた方がいいのではないかと言ったけれど、見ているだけは性に合わないと袖を捲った。
「さすが、慣れた手付きですね」
「まあ、それなりにやってるからね」
ユリウス様が隣に並び、シオン様を見て感心している。
「シオン様は領地経営のお仕事で忙しいですが、畑仕事もしっかりやっているのですよ」
「僕も見習わないといけませんね」
そう言うユリウス様だけれど、初めての作業とは思えないほど手際よく収穫していた。
きっと今までたくさん勉強していたんだろうな。
一通り収穫し終え、みんなで採れた野菜と畑を眺める。
今回は私の魔法ですぐに成長させたけれど、肥料をまき、水をあげ、丁寧に育てればもっともっと豊かな土地になっていくだろう。
「ティアさん、本当にありがとうございました」
枯れた荒野から、たくさんの食物が育つ土地に生まれ変わった景色に私も満足だ。
「いえ、私も良い経験になりました。何かあればいつでも相談してください」
「シオンさん、いいですか?」
「ティアの意思を尊重する……」
「ありがとうございます」
ユリウス様はなぜかおかしそうに笑っていた。
「そろそろ帰ろうか」
「はい。そうですね」
気付けば夕方になっていた。
短い間だったけれど、ここでの経験は私にとっても有意義なものだった。
「僕もここが落ち着いたら王都の邸宅に戻りますので、そのときに改めてお礼をします」
みんなに見送られながら、手を振り別れを告げた。
シオン様は魔力を蔓延らせ、足元に魔法陣を描くと私の腰をギュッと引き寄せる。
温かいものが、身体を纏う。
これが、転移魔法なんだ。
こんな経験、きっともうないだろう。しっかりと目に焼き付けておこう。
と思っていたけれど、瞬きをした瞬間、グラーツ家の中庭だった。
数日いなかっただけだけれど、なんだか懐かしい。
そしてふと思った。私はいつの間にかここが帰る場所になっていたんだ。
「ティア、おかえり」
「ただいま……です」
腰を抱えたままホッとした表情を見せるシオン様。
まるで張りつめていたものが解けたみたいだ。それだけ、私を心配してくれていたということだな。
あ、そうだ……
「あのシオン様、昨日言っていたユリウス様を罪に問うというのは……」
「そうだね、僕の対応も悪かったから、今回は目を瞑っておくよ」
良かった。
何の対応が悪かったかはわからないけれど、ユリウス様にはこれからもしっかりとジーク領を守っていってもらいたい。
「私も、今後は気を付けます」
「ねえ、ティア。舞踏会の日、どうしてクラウドと僕を踊らせたの?」
「えっ……それは……」
このタイミングでそれを聞かれると思っていなかった。
「あの時のことが変な噂になってるみたいなんだよね」
「変な噂とは?」
「グラーツ公爵は妻を放って男に現を抜かしているってね」
うそ……。そんな噂が。
二人のことを思ってしたつもりだったけれど、周りからそんなふうに見られていたなんて。
考えが足りなかった。
私のバカバカバカ。
シオン様の評判を下げるつもりではなかったのに。
「申し訳ありません」
「うん。だからさ、明日街でデートしようよ」
街で、デート……。
二人で仲良くしている姿を見せて、噂を払拭するということか。
クラウド様との仲を応援したいと思っているけれど、シオン様の望まない形で周りに噂されるのはだめだ。
「わかりました! 頑張ります!」
「頑張らなくても普通にしてくれたらいいからね」
そう言うけれど、ここは頑張り時だ。
明日は周りの人から私たちがラブラブに見えるようにしっかり振舞おう。
シオン様にたくさん迷惑をかけた分、噂の払拭くらいやらないと。



