手を振って別れて私は自動で席に戻った。

 そして何の前触れもなく、体のコントロールが戻ったんで、対応なんて出来ずにガクっと

 頭を机にぶつけそうになった。

 「痛あ……」

 いや、ぶつけてた。

 =ほら、こうやって友達を作っていくの。分かった?=

 =うーん……=

 どうやら体がお姉ちゃんに乗っ取られてたらしい。

 おでこをさすりながら(絶対、赤くなってる)思う事は、さすがって事だけ。

 まだ友達じゃないけど、知り合いは一人出来た。それもあっと言う間に。

 =これから休み時間になったら、こっちから遊びに行くの。いい?=

 =うん=

 お姉ちゃんの言う通り、それから私はエイハちゃんの席に行って、お話を始めた。話が途切れると、その度にお姉ちゃんが変わって

 くれたから、そこはスムーズだった。

 「クレナってさー」

 「うん」

 知り合って一週間で既に呼び捨て、最近の女子高生のコミュ力は恐るべし(あ、いや私も同じ女子高生なんだけど、汗)。私の方は

 と言えば、やっと(エイハちゃん)って、下の名前で呼べる程度。まだまだだねー。

 「クレナってたまに、表情ががらっと変わるよね」

 「そうかな?」

 「何て言うかさ。急に目力が強くなるって言うか、釣り目になるっていうか」

 「そ、ソンナコトナイヨー」

 いけない。キョどってしまった。

 そうか、自分では分からなかったけど、お姉ちゃんに体を貸してるときはそうなるのか。

 「今は、真夏に車内で放置したチョコレートって感じだけど」

 「え?……それは……」

 もしかして、でろーん……って感じなんでしょうか?

 猫ではないから、そこまで液体ではないと思うんだけど。

 そんな感じで、クラスで孤立する事もなく、無事に高校デビューは果たす事ができたわけで、つまりそれは、次なるミッションが発

 生する鍵でもある。そうして終わる事のない試練の連続が人生なのね……などと、頬杖をついてもうとっくに葉桜になった校庭を眺めながら、そんな事を考えてみる。

 このままやっていけるかな……って自信が、いや、そんなものは最初からないけど、難しいって思ってた矢先の事。

 「では次に体力測定、百メートル走を始めます!」

 体育の時間。怖そうな体育の男の先生がそう言った(いや、ほんとに怖いの。怒ると眼鏡がキラっと光るの)。

 ああ、ついにこの時間が来てしまった。運動音痴の私にとっては、皆の前でその醜態を晒されるだけで、ただの処刑時間でしかない

 のよ。別に走るのがちょっとぐらい速くたって、これから生きていく上でそんな問題はないじゃない……って、終わってからいつも負け犬の遠吠えを心の中で叫んでたりする。それでもって、終わってから、見ていた他の人は、ゆっくりとゴールする私にパチパチと乾いた同情の拍手を送るまでがセット。

 「はあ……」

 「紅奈、ファイトぉ!」

 エイハちゃんはそんな事を言ってるけど……、陸上部の人はいいなあ、と、こんな時だけは思う。普段は練習大変そうだなって思っ

 てるくせにね。