=ほら、そこのXに、右下の式を参照して……=

 =そこの英文の構文、間違ってるから……そういう場合は……=

 『んんー…………』

 =もう、紅奈、真剣にやって=

 『えーっと……えへへへ……』

 困る事があると、こうやって笑ってしまうのは悪い癖だとは分かってる。

 お姉ちゃんの声が、どんどん教えてくれるから助かったんだけど、最後の方は、もう頭の中が、ボールペンでグチャグチャに線を引

 かれて真っ黒になったみたいになってた。

 それが大体、半年……奇跡的と言うか……。その短い六か月という期間で、私の学力は飛躍的……って言うのは大袈裟かなー。よく

 テレビの経済番組で、下げとまりの傾向から、緩やかに上昇しつつある、みたいな表現をしてるけど、だいたいそんな感じ。

 それでね。受験日当日はもう自信満々で会場に行ったの。

 模擬試験では大体合格圏内だったし、もし何かあればお姉ちゃんの声が教えてくれるから絶対大丈夫だって。

 向かってみれば私一人で意外に簡単に解けたので、ここはもう鼻高々。校門から出てきたとき、真っ先に誰にこの感動を伝えたいか

 と言うと、もちろんそれは、紗久耶ちゃん、それから頭の中のお姉ちゃんの声。あとお父さんとお母さん(後まわしでゴメン)。お姉ちゃんは見てたはずだから、言わなくても分かってるとは思うけど、とりあえず、ありがとうってだけは言ってみた。

 合格の通知が家に来た時、私は一人で部屋の中で大喜びしてた。

 =子供じゃないんだから=

 『嬉しいから仕方ないの!』

 そんな経緯で私はお姉ちゃんと同じ、進学高に通う事になったってわけ。

 春休みが長かったから、私は図書館とかに行って、この声の正体が何なのかいろいろと調べたんだけど(私はインターネットとか苦

 手。紗久耶ちゃんは得意だったけど、聞くと引かれそう)。

 アナログを駆使して調べた結果、どうも私に聞こえるこの声は、イマジナリーフレンドとかいう現象が近いのかな。心の喪失感を埋

 める為に、脳がつくりだした虚像だとか、不具合だとか云々。虚像?……私はそうは思えない。だってこんなにはっきりと話してくれるし、私の知らない事でも言ってくれる。

 結局、本当の所は分からないまま、私は入学に至ったってわけなの。

 うん……もう別に理由なんてどうでもいいかな。

 =もうちょっと速く歩かないと遅刻するよ=

 「え? あ、ほんとだ」

 こうやってお姉ちゃんを側に感じられるんだから。

 ただ、話してる所は他の人には見られないようにしないとね。