=お、お姉ちゃん、変わって!=
=…………=
=お姉ちゃん?=
返事がない。どうして? 今が一番大事な時なのに!
“いたいた、あのクソ生意気なガキだ”
「!」
気が付かなかったけど、周りは五、六人の男の人達に囲まれてた。
腰パンに、変なチェーンをジャラジャラ……絵に描いたような輩の人達……何処かで見覚えが……。
「……ったく……あんな恥をかかせやがって」
あ、そうだ! さっき、ゲーセンで私(お姉ちゃん)に負けた人達だ。
「……行こう、紅奈ちゃん」
先輩は私の手を掴んで離れようとしたんだけど。
「おい、待てよ!」
輩の一人に行く手を通せんぼされた。そしてまた典型的な輩笑い。
「シカトしてんじゃねえよ!」
「ぐ!」
先輩は突き飛ばされて倒れた。
「これは礼をしないとな!」
輩が近づいてくる。
=お姉ちゃん! 変わって!=
返事がない。こんな時に!
輩が近づいてくる! 何とかしないと。
え? 私が?
どうやって? 無理無理無理!
……って、言ってても仕方がないのは分かってる。
逃げる……ううん、それは無理、周りを囲まれてるし、先輩もいる。
だとしたら……この場で何とかするしかない。
どうやって?
「…………」
手本は……さっき見たじゃない。
お姉ちゃんがやった通りにすれば……。
出来るかな……じゃない。
私は出来る!
私は、完璧超人、柊翔子の妹なんだから! それが自信の根拠!
「…………」
私の目が吊り上げる。
私の意志で。
それと輩の手が伸びてくるのはほぼ同時だった。
「はっ!」
「?……うわあ!」
私は輩の腕を掴んでひっくり返す。輩Aは、一回転して地面に転がった。
「……なんだ?」
怪訝な表情の輩BとCが同時に近づいてくる。
「ふん!」
一人は掌底打ちでアゴを突き上げ。もう一人は膝でみぞおちを打った。
「ぎゃ!」
「ぐ!」
輩二人は同時に崩れ落ちた。
「…………」
私は片足で立ったポーズからゆっくりと足を下ろしていく。
それから残っている輩D~Fの三人に手の甲を向けて、それから、クイクイっとこっちに来るように曲げた。
それは完全な挑発。かかって来いやって意味なんじゃないの?
さっき画面で同じポーズを見た。
「ふざけんじゃねえぞ!」
「てめえ!」
「おらあ!」
案の定、頭に血が昇った彼らは、同時に殴り掛かってきた。
「…………」
一人目の拳が目の前に迫ったけど、私はスケート選手みたいに後ろに大きく体をのけ反らせ、拳が空振りした後、足の先で男のアゴ
を蹴り上げた。そこでその輩Dは転がり、戦線離脱。
「なに⁉」
別の輩……多分、元チャンピオン(ゲーム)が後ろから殴ろうとしていたけど、私は倒れてる輩の背中を踏みつけて大きく空へと舞
い上がった。
「ぐはっ!」
空から真っ直ぐに輩Eの頭を両足で踏みつける。輩は地面に顔を打ちつけ、そのまま動かなくなった。
「な……なん何だ……おご!」
思考停止中の最後に残った輩Fを回し蹴りで吹き飛ばした。
「…………」
私が目を閉じたので、視界が真っ暗になる。
「…………」
再び目を開けるとあちこちに倒れた輩がそのまま残ってて、少し離れた所で、先輩が口を開けてこっちを見てる。
やった……のか?じゃなくて、やってしまった……のか?
輩を相手に大立ち回り。
これはもう……言い訳のしようがない。
どうしようか……どう声をかければ……。
「…………」
=……お姉ちゃん=
やっぱり何も答えてくれない。
こんな時に!
そうやって、私が一人でやれるかどうかを試してるだろうけど……意地悪だなあ。
でも……今の事で自信がついたような気もする。
何の自信だかわからないけどね。



