死んだはずの姉が、私の中で話しかけてくる――。
頼りない私と完璧なお姉ちゃん、二人で一人のハイブリッドガール。
そんな私が恋をしてしまった相手は……
私には歳の離れた姉がいた。ううん、いた。つまり過去形。
姉妹だったのは私が小学生だった時までで、高校生だった翔子姉ちゃんは亡くなってしまった。どうして死んでしまったのかははっ
きりとは分からない。子供だった(今でもだけどね)私は、ただお姉ちゃんの死っていうのが受け入れられなくて、ずっとひたすら泣いてたから、多分、理由なんてどうでもよくて、ただ、またいつもの様に、側にいてほしいって……それだけだったんだと思う。だから
聞きそびれてしまった……って感じ。今さら詳細を聞くなんて出来るはずもなしで。
同じ高校に通い始めたから、そんな事をつい思い返してしまう。
私はお姉ちゃん子だったから……‥今もなんだけど。
お父さんもお母さんも仕事が忙しかったから、私の側にいたのはお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんは、勉強が出来て、運動が出来て、友達もたくさんいて明るくて。凄いなと思う。お父さんとお母さんは、今の私は、び
っくりするほど当時のお姉ちゃんに似てるって言ってる……。外見だけでも凄い嬉しい。髪型とか寄せてるんだけどね。
比べて私はお姉ちゃんとは全く逆。勉強がいまいちで、運動は全くできない。友達は……一人だけ、近所で一緒に遊んでいた同い年
の紗久耶ちゃん。紗久耶ちゃんは私と違ってしっかりしてて、お姉ちゃんがいなくなって、毎日泣いてた私を、ずっと励ましてくれてた……らしい(ごめんなさい。よく覚えてない)。
今の私がこうして、学校に向かう途中の桜並木をお姉ちゃんと同じ制服を着て歩いていけるのは、紗久耶ちゃんのおかげ。ほんと、
私って誰かに助けてもらってばかり。うん、毎日感謝してる。
そんな紗久耶ちゃんも、お父さんの仕事の都合で遠くに引っ越してしまったのは、つい一月前の事。
「…………」
だから登校中の今は一人。ちょっとだけ写真のお姉ちゃんより長くなった髪が、桜の枝と一緒に春の心地良い風に揺れてる。多分、
お姉ちゃんも初登校はこんな感じだったのかなって想像してみる。
でも、お姉ちゃんの事だから、友達と一緒に登校したと思うから、私とは違うか。
=そうかな? 私もさすがに初登校は一人だったけど?=
「…………」
私の頭の中に声が響く。それは翔子お姉ちゃんの声。覚えてないけど、それはお姉ちゃんの声だ。
=ここまでは紅奈と一緒。紅奈は紗久耶ちゃんが今まで一緒だったからまだ良かったでしょ? 私は一人スタートだったし=
「…………」
頭の中にこうしてお姉ちゃんの声が聞こえるようになったのは、高校受験が迫ってきた中学三年の夏休み前頃。
『絶対、お姉ちゃんと同じ高校に行くから!』
って言って、お父さん達と先生と私が頭を悩ませてた時期。自慢じゃないけど、そこまで……って言うか、平均ちょっと下ぐらいの
成績で、高望みが出来る状況じゃなかったんだけど。
だから私が通う事になった高校はこの辺ではレベルが高い。
=ほら、ここの桜並木は綺麗でしょ? あと十字路曲がった先に、ラテがおいしいカフェがあるの。紅奈も帰りに時間があったら寄
ってみて=
「…………うん」
紅奈……クレナって言うのが私の名前。なぜか私を、頭の中でお姉ちゃんが話しかけてくる。
受験勉強……その字面だけ見ても嫌になるけど、その時は私も当然頑張った……と思う。
自分の部屋で一人で勉強してたんだけど、一人じゃなかった。



