【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―

 ドキドキする胸の音を聞いていると、一改くんは私に背中を向けて、顔だけで振り返る。




「行こうぜ」


「は、はい…っ」






 それからの帰り道は、たくさんのことを話した。

 一改くんはやさしくて、ささいなことでも怒ってくれて。

 私よりも私を大事に思ってくれるような言葉を聞いたら、また涙があふれてしまった。


 水にたれた絵の具が一瞬で色を広げるように、私の日常に溶けこんでくれた一改くんは、日々そのやさしさで、私の心を温かく包んでくれている。

 何度も会うようになって、何度も話すようになって知ったのは、一改くんはすこし過保護だということ。

 それすらもくすぐったくて、いつしか、一改くんがずっと私のとなりにいてくれたらいいなぁ、と思うようになった。