【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 変にドキドキする胸にとまどいながら首をかしげると、一改くんはすこし眉根を寄せて私を見つめた。




「礼を伝えに来てくれたのはうれしいけど。もう、こんなあぶないことすんなよ?Malice(マリス)のやつら、クズばっかだし…」




 言葉のとちゅうで、目を細めて私のほおをなでる一改くんにドキッと心臓がはねる。

 一改くんが今ふれているのは、Malice(マリス)の総長にビンタされたところだ。

 もしかして、赤みが残ってたのかな…?




「なんか、ひでぇことされなかったか?」


「だ、大丈夫です…っ。そんなに、たいしたことは…」


「…はぁ。やっぱ、心配。さっきの、不運がどーたらって話も気になるし…帰り道、話聞かせてもらうから」




 一改くんは私のほおから手を離して、真剣な目で私を見つめる。

 一改くんと、一緒に帰れる。その道中、話もできる。

 なんだか、夢みたいだ。