【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 シャツ越しに感じる、温かい体温のせいか。

 耳元で聞こえる、低い声のせいか。

 初めて呼ばれた、名前のせいか。


 ドキドキと鼓動(こどう)が速くなって、顔に熱が集まっていく感触がする。

 一改くんが、これからも私の人生にいてくれることが、うれしくて。




「…い、」


「おい、一改!」


「ちょ、総長!今声かけたらかわいそうだって、なんかいい雰囲気だし!」




 一改くんに話しかけようとしたとき、他の人の声が聞こえて、私も、なぜか一改くんも、ビクッと肩がはねた。




「っ、うるせぇ!なんだよ!」


Malice(マリス)は片付いた!これからあと始末するから、おまえはその子を家まで送り届けてこい。送りオオカミにはなんなよ?」


「~~っ、だまれアホ!」




 送りオオカミ…?とパチパチまばたきをしながら、すこし顔を上げる。

 一改くんはほおを赤くして、うしろをにらんでいた。