【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―

「…いや、俺も、“伝えたいことがある”って言ってくれてたのに、聞こうとしなくてわるかった」




 一改くんはわるくないのに、そんなふうにあやまられてしまって、私は首を横に振った。

 それでも、すこし眉根を寄せて、謝意を伝えるように見つめてくる一改くんは、やっぱりいい人だ。




「あらためて、2週間前は本当に…ありがとうございました。一改くんと出会うことができて、よかったです」




 私の世界を変えてくれた人。私にやさしさをくれた人。

 ほほえんで見つめると、今度は一改くんが首を横に振る。




「俺も、あの日にやっと変われたんだ。初めて兄貴にさからって、Valor(ヴァラー)に入る決意をした。あんたにきっかけをもらったんだ」




 一改くんはすこし表情をやわらげて、「ありがとう」と逆に感謝を口にした。